第二章 同じモチーフ、違うモチーフ(5)

 土曜、史郎に連れて行ってもらったのは、東京湾に面した大きな展示場だった。そこのホールを丸ごと使って開かれるハンドメイドのイベントが「ハンドクラフト・バザール」だった。土日とも開催すると聞き、遥は驚いた。しかし、それだけではなく、最寄の駅からの人の多さにも、中に入ってからは、会場の広さにも驚いた。大学の大講義室が三・四個は入りそうだった。この会場が二日間いっぱいになるほどたくさん作家がいるのだ。会場内の人の多さは会場外の比ではなく、繁華街よりも混みあっている通路もあった。

「圧倒されるね……」

「確かに」

 遥が嘆息すると、史郎もうなずく。

「端から見ていくと、本当に疲れるよ」

「そっか、事前に見たいブースを調べて来た方がいいんだー」

「まあでも、新しいものを見つけたいなら、片っ端から見た方がいいけど」

「とりあえずは、ホワイト・ピコさんのところに行こう」

 調べておいたブース番号を、壁に貼ってある地図で確認して歩き出す。人が多くて迷子になりそうだった。とても横に並んでは歩けなくて、前を進む史郎を見失わないようについていく。

 目的のブースはすぐわかった。サイトの写真で見た通りの、南の部屋で見たのと似ているパステルカラーの編み物が、机の上に立てられた棚に綺麗に飾られている。

 史郎が足を止めた横に並んで、売り子を見る。茶色に染めた髪を自作らしいヘアバンドでまとめた女性は、南と同年代なら二十代半ばだろうけれど、もう少し年上に思えた。

 彼女は遥を見て、落ちそうなくらい目を見開いた。

「南ちゃんっ!」

 勢いよく遥の肩を掴むから棚が傾きかけて、史郎がとっさに支えた。

「すみません。私は、南の妹の遥です」

 女性のただならぬ様子に、遥は慌てて頭を下げる。姉に間違えられ、相手に動揺を与えてしまうのは、母と隼人に続き三度目だ。さすがに髪型くらいは変えた方がいいかもしれない。

「えっ? 妹さん? 南ちゃんじゃないの?」

「はい。そうです。すみません」

 呆然とする彼女に、遥はさらに追い打ちをかけなければならなかった。

「姉は交通事故で亡くなったんです」

「な、亡くなった……? そんな……」

「五年前です」

「五年……? あ、だから……そうか……それで……」

 遥から手を離した彼女は、がっくりと椅子に座りこんだ。

「大丈夫ですか?」

 顔を覆うようにして肩を震わせる彼女に、遥は聞く。

「俺、店番やってますから、ちょっと休んできたらどうです?」

 史郎が提案すると、彼女は首を振った。

「……っ、大丈夫。交代要員がいるから。待って」

 鼻を啜りながら誰かに電話をかけた。

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