アクロイド殺しは探偵の夢を見るか
賀野田 乾
第1話
フェラーズ夫人が亡くなったのは、9月16日から17日にかけての夜——木曜日だった。
意識が身体に戻った時に、そんなテキストが思い浮かんだ。何故かと言えば、私を取り巻く状況がその小説の中で書かれたものとよく似ているからだ。
それはずっと昔に書かれた推理小説で、刊行された当時はその頃よく使われていたロジックを逆手に取った形での解決方法を取ったものだったらしい。
その小説の中で描かれている屋敷の中で暮らす人としての生き方のテンプレートが、その小説の刊行から200年も経つ現代になっても同じモデルとして成立している事も条件の一つだが、何より今の私の置かれた立場がその小説での犯罪者と似たような状況である事。
そして、それと同時に私はある意味でその探偵小説では同じくスタンダードな存在である事件の謎をロジックで解決しなくてはいけない役割——即ち探偵の役割も行う必要が出てきたから。それが推理小説と言うカテゴリを愛好していた私の主人と、その使用『人』だった私——今はこのボディになっているようだが——に考えと行動を結び付ける共通項があったからだ。
その小説で、その条件に当てはまる探偵の名は確か……『エルキュール・ポワロ』だった。
アクロイド殺しは探偵の夢を見るか 賀野田 乾 @inuitaku
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