エピローグ 夏に思い出を乗せて
「いってきます」
「いってらっしゃい」
結歌は通学団があるから先に飛び出していった。お父さんはもっと早くから出てる。私が三番目。お母さんは四番目。
ドアを開けると、
(発見っ)
私はてくてく近づいていって、
「おはよう、流都」
「おはっ」
半そでカッターシャツに学生服ズボンの夏服流都から、やっぱり半そでブラウス夏スカートな私の頭をわしゃわしゃされた。
どうしても流都が呼び捨てにしなさいと言うから、せめて二人っきりのときだけでっていう条件を出したらそれでいいって言ってくれた。み、みんながいる前で『流都っ』は、ちょっと……。
「どうしても流都って言わないとだめ?」
「だめ」
「なんで?」
「……俺の彼女だから」
もぅ。だれかに聞かれたらどうするのーっ。
(流都く……流都の彼女さんになっちゃった)
ああだめ、やっぱり『流都』なんて慣れないよぅ。
「名前と言ったら、雪乃って名字も桜子だから、どっちも名前みたいでなんか得じゃね?」
「お、お得かなぁ? 紛らわしいってよく言われるけど、お得って言われたことなんてないよ?」
「雪乃は桜子って呼ばれるのと雪乃って呼ばれるの、どっちがいい?」
「どっちでもいいよ? 名字も気に入ってる。桜子って呼びたいの?」
「いや、聞きたかっただけだ。俺は雪乃のことは雪乃って呼ぶ。だって俺彼氏だから」
もぅ~。私はほっぺたふくらましますぷんぷん。
「とりゃ」
ぷしゅっという音と一緒に私のお口はたこさんに。
「ぷはっ! やっぱ雪乃といたら楽しいな!」
「もぅ~っ。私で遊んでないー?」
「ないないっ。なんなら雪乃も俺で遊んでくれていいくらいだぜ?」
「私はそんないたずらっこじゃ………………ありません」
「ぶはっ! なんだその間、ははっ、あー雪乃といると楽しくてしょうがないな!」
「……くすっ。ふふ、あはっ」
釣られて私も笑っちゃった。あ、笑いすぎてちょっとお腹っ。お腹ぁっ。
「雪乃がそうやって笑ってくれるんなら、俺、やれること頑張るから」
「ありがとう」
流都は優しくほほえんでくれた。
始業式の後、教室に戻って席替えが始まった。
先生が用意したダンボールの中に数字が書かれた紙がたくさん入っていて、一人ずつ引いていって黒板にばらばらに書かれた数字の場所へ移動するというもの。
私の順番が回ってきたので、左手で冷凍パイナップルダンボールから紙を一枚取りました。早速確認してみると、
(13かぁ)
右前の方の席になったみたい。
全員が引き終わって、移動開始の声がかかると、みんな一斉に机とイスを持って動き始めた。重たい。
私は右前の方の席なので移動している……と、中崎くん? が通りがかって……
「桜子さん、紙見せてくれるかな」
「えっ? はい」
と言われたので、右手に持っていた13番の紙を見せたら、
「え、えっ?」
すぐさま中崎くんが私の13番を奪っちゃって、換わりに30番という紙を渡された。
「中崎くん?」
「野々原から事情は聞いた。僕のせいで君たちの幸せな時間が減ってしまうかと考えたら、授業に集中できないからね」
と中崎くんが言うと、そのまま移動しちゃった。
(え、い、いいのかなぁ……)
先生は特に気づいてないみたいだけど……。
(先生ごめんなさい、桜子雪乃は悪い子です)
今さら中崎くんに返してもらいに行くのもあれなので、30番の席へ向かうことに。
私が30番の席にやってきて、机とイスを調整していると、
「雪乃?」
「流都くん?」
すぐそこに流都がやってきた。
「雪乃そこ?」
「えと……うん」
私は30番を見せた。
「俺、ここ……で、いいのか?」
流都は私に26番の紙を見せてくれた。黒板を見てみると……
(私の左隣だっ)
「流都くんと、隣?」
「ああ、そうみたい……だな? まさかそれで……まあいっか。よろしくなっ」
「うん、よろしくねっ」
夏休みの思い出を胸に、中学生活最後の二学期が始まった。
(……え、ちょっと、敬ちゃん穂綾ちゃん知尋ちゃんと……なんで中崎くんも私に向かって親指立ててドヤ顔してるの?)
数あるあなたと夏恋思い出たち ~完~
数あるあなたと夏恋思い出たち 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho
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