オタクの俺の部屋にお節介でミニマリストの幼なじみが毎日断捨離させようと押しかけてきます

ミズキミト

第一話 オタク男子とミニマル系幼馴染み

 オタク。日本において1970年代において誕生した呼称である。自身の好きな事柄や興味のある分野に極端に傾倒する人間を指す言葉である。最も世間一般的なオタクのイメージはアニメや漫画、サブカルチャーに特化した者へ向けられる言葉として用いられる事が大半であり、コレクター気質の人間が多い。

 最もこの俺、須田集河 すだすだかもそのオタクと呼ばれる人間の一人だ。

小さい頃からアニメ好きの父の影響を受け、アニメ、漫画のサブカルチャーの世界にどっぷりはまっている。

おかげで、中学、高校共に青春らしい青春は遅れていない。

まぁ望んでそうなったんだから本望ではあるのだが。

そんな暗い話はひとまず置いておこう。今日の俺にはやることがあるのだから。

右手に抱える黒い袋に視線を落とす。袋には『らいおんのあな』と大々的な記載がある。『らいおんのあな』は同人誌を中心とした漫画関連商品を店頭販売、通信販売する同人ショップである。

 そして今回sそこで購入したのは俺が愛して止まないアダルトゲーム『べ、別にお兄ちゃんの為に毎晩黒ニーハイ履いて夜這いしてる訳じゃないんだからね!ツンッ』に登場する妹キャラ柊朱衣 ひいらぎしゅいちゃんのプレミアムフィギュア白衣の天使(ナース)verが遂に発売されたのだ。

 最も言うまでもないが朱衣 しゅいちゃんは俺にとっての天使であり、断じて白衣を纏っているから天使という訳では、いやネットのイメージ画像では純白のナース服と、おみ足には朱衣 しゅいちゃんの象徴とも言えるセクシーな黒ニーハイタイツを履いていらっしゃる。これは天使などではない。そう 朱衣オブ 朱衣なのだ。

 おっとつい癖でキモオタトークを心中で繰り広げてしまった。心の中に居るはずのないイマジナリーフレンドに自身の朱衣 しゅいちゃんへの熱意を語った所で、丁度自身が住まうアパートの前に着く。


(早く、おみ足を拝んでママらなければ!!)


颯爽と階段を駆け上がり、二階の一番奥の角部屋の扉を開ける。


「ただいまぁ!」


「……おかえり」


「……?」


 言い忘れていたが俺は一人暮らしだ。親元から離れてなんの変哲も無いF大学に通う大学生だ。なのにおかしい。声がかえってきた。

いよいよ幻聴が聞こえるようになってしまった様だ。

しかもかわいらしい声で『おかえり』だなんて、オタクの憧れじゃないですか。

 画面の向こう側にいる子かソファに寝転んでTV見てる母親にしか言って貰ったことない。ここまで来ると精神科に行かなくてはならないが、後悔はない。


「……オタクとは(社会的に)死ぬ事とみつけたり」


「……何言ってんのあんた。てか瞳を開けて目の前の現実を見て」


 また幻聴が返答 アンサーを返してくる。これはいよいよイマジナリーフレンドの可能性すら出てきた。でもク○ウドみたいでかっこいい。


「ねぇ……ねぇってばッ!すだかッ!」


「……その呼び方は、小結 こゆいか?」


俺の事を集河 すだかと呼ぶ異性はあいつしかいない。

 目を開けると玄関には、女性というにままだあどけなさの残った、でもどこか懐かしい少女が、俺が纏めた漫画雑誌の上に腰かけ、足を組んで仏頂面でこっちを覗き込んでいた。因みになぜ目を閉じていたかというと、自分の家にいきなり見知らぬ人間がいる場合と自分が本当に精神疾患を患った可能性の最悪の二択から目をそらすためだったが、運良くどちらも回避出来たようである。


「……お前、大きくなったな」


「あんたは……大学生になっても全然変わんない。相変わらずファッションセンスも、趣味も気持ち悪いし」


「……完全否定ですか。はい、そうですか。そうですか」


彼女の名前は『小松小結 こまつこゆい

俺の一つ歳下の幼なじみだ。でも何故ここに。しかも俺の部屋の中に一体どうやって。

俺の脳裏に浮かぶ疑問が言葉になる前に小結 こゆいが人差し指で回る鍵の存在を見て全て理解した。


「叔母さんがよろしくだってよ」


「お袋……いくら幼なじみだからって鍵渡すかね」


「ま、別にあんたの部屋の鍵なんて貰ってもうれしくもなんともないんだけど」


「あ、っそうかよ。んじゃ返せよ」


 小結 こゆいの手元にある鍵を奪おうとするも、手のひらには空気の感触のみであった。


「おい」


「だーめ。私はあんたがだらしないからここにいる間あんたの管理を任されてるんだから。あんたがこんなただれた生活してるなんて知れたら私が叔母さんに申し訳がたたないわ」


 もっともらしいことをいいながら小結は仏頂面で鍵をくるくると回している。確かに小結は小さい頃からの付き合いではあるが、何故部屋の鍵をこいつに握らせなければならないのか。

 俺とて男子だ。いくら異性として意識していないとはいえ、女子に部屋を覗かれるのはあまりいい気がしない。よし、ここは一つ年上の男としてガツンと言ってやろう。


「なんで赤の他人のお前がそこまですんだよ。てか、わざわざ俺の様子を見にこんなとこまできたのか?だとしたら随分とお暇だな」


「あら勝手に勘違いされちゃ困るんだけど」


 床に無造作の投げられたパンフレットを見る。冊子に映るのは白い建物。大学だろうか。その写真に見覚えがあった。

ここは――


「俺が通ってる大学じゃねぇか……ま、まさか」


思わず、声に出して驚いてしまった。小結は思った通り、といわんばかりの反応をした俺をあざ笑うかの様に薄く口先に三日月を作った。


「そう。私は今年からここの一年生。つまりあんたの後輩よ。よろしく。せ、ん、ぱ、い」


「な、なん、だと」


思わず後退り、玄関のドアに背をぶつける。まさか、まさか。

靴を脱ぎ、小結を押しのけ、廊下を駆け、部屋のドアを開け放つ。


「――な」


 ガラスケースに綺麗に陳列されていたフィギュアが全て、取り出されていた。幸いフィギュアは全て無事であり、フィギュア達を詰めようとしていたであろう段ボールが綺麗にたたんで纏められていた。

漫画、小説が並べられいた棚はまだ手が出ていないようだ。PCを配置しているL字デスク周辺は問題なさそうだ。大学ではレポートの提出が求められる。故に必要だろうと判断されたのであろう。タブレット機器も同様に無事だ。


「ふっー。セーフ」


「セーフじゃないわ、よッ!」


「痛ッ」


安堵と同時に肩を撫で下ろす、と同時に頭部に痛みが走った。

軽い痛みに頭を撫でながら背後に振り返ると小結が丸めた雑誌を手に仁王立ちし、俺を見下ろしている。


「お前、勝手に俺の部屋の断捨離すんなよ」


「あら、お礼の一言も欲しいとこだけどね。不要な物とそうでない物の分別をしてあげていたのだから」


誇らしげな表情で、にやりと口角を上げ、どや顔をかましている。くそ、一年間忘れていた。こいつの存在を。

 ところで皆さんは聞いたことがあるだろうか。ミニマリストという言葉を。持ち物を出来るだけ減らし、必要最低限の物だけを持つことで、豊かに生きようという考え方を持つ者の事を指す。大量生産、大量消費の現代社会において、新たに生まれたライフスタイルである。小結もそのミニマリストに該当する。

 小さい頃から必要最低限のものを持たず、家が隣接していたので彼女の部屋に遊びにいくと、部屋にあるのはランドセルと教科書一式、勉強机とベットぐらいのものであり、非常に退屈だったのを覚えている。まぁこの当時はまだ普通の部屋であったか。

 その後彼女の部屋に上がる事はなかったが、母づてに聞く話だと、ベットも机も無くし、何もない部屋で満足そうに床に大の字で寝転ぶ彼女の姿が目撃されたとか、そうでないとか。

 最もミニマリストそのものを否定するわけではない。この決して景気の良いとはいえない現代日本で最低限の消費で、生きていくのはむしろ賢いといえるだろう。お金もたまり、更にその最低限必要なものにより高価な投資をする事が出来るのだから。お金も貯まり、心も豊かになるし、部屋も綺麗だ。メリットはきっと多いのだろう。

 だこの小結さん、無自覚なのだが不器用ながらもとっても、とってもお節介で世話焼きさんなのである。そしてそもそも俺はオタクでありコレクター気質の人間だ。故にどうしても部屋にものが多くなってしまう。

 俺からすれば貴重なコレクションなのだが、彼女からすれば俺の部屋は無駄なものが多い部屋にしか見えない、という双方のライフスタイルに纏わる考えに齟齬が生じているのだ。

 故に現状彼女は親切心で俺の部屋を片付けようと無自覚に他人にミニマリズムを説き、非常にありがた迷惑な状況になっていることに彼女は気がついていない。

今も俺の横でどうすれば俺の部屋が綺麗になるかを口元に手を当て、小言を言いながら吟味している。必要かそうでないか、を。


「ん~……あれは必要だけど、あれは、ん~でも多すぎるし……」

 

 あの目は断捨離の瞳。そう俺は彼女のあの瞳を断捨離輪眼 だんしゃりんがんと読んでいる。真剣なまなざしの彼女を横目に目眩がしてきた。


 地元にいる時もよく、部屋に来ては小言を言われたものだが、まさか鍵をあけて勝手に断捨離を決め込もうとは、見ないうちに嫌な方向に成長しやがって。


(あぁ……俺の悠々自適なオタクライフはどうなっちまうんだ)


「あぁッツ物が多すぎるのよッ!すだかっ」


 こうしてオタクな俺とお節介なミニマリスト幼馴染みとの毎日断捨離生活が始まった。





















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