6-6 叔父との会合

―そして、約束の日―。


待ち合わせ場所の練馬駅で会った慎一と真智子は先ずは慎一の下宿先の叔父、真部幸人の家に向かった。

「慎一の叔父様っていつ頃奈良から東京にいらしたのかしら?」

真智子は慎一と一緒に歩きながら、それとなくこれからはじめて会う慎一の叔父の話題を出した。

「学生の頃からかな。東京の大学に合格して、そのまま東京に住むようになったらしい」

「ずっとお一人なの?」

「弁護士の仕事をしていてね。何かと大変みたい」

「えっ、叔父さん、弁護士さんだったの?」

「うん。なんとなく今まで話すきっかけもなかったけどね」

真智子は思わず緊張で胸が高鳴った。

「慎一の身近な人ってなんとなく偉い雰囲気だよね」

「そんなことないよ。叔父さんは会えばわかるけど、とても気さくな人だよ」


 叔父と一緒に住んでるマンションに着いて慎一が玄関のチャイムを鳴らすと、叔父、真部幸人が出てきて真智子に向かって挨拶をした。

「こんにちは。はじめまして。真部幸人といいます。慎一君や兄から話は聞いているけど、君が慎一君と付き合っている高木真智子さんだね」

「はい、高木真智子です。はじめまして」

「忙しいところ、わざわざありがとう。ここは狭いから近くの喫茶店で一緒に食事でもしましょうか」

ジャケット姿で出てきた真部幸人はまだ若々しく、慎一と並ぶとまるで兄弟のように見えた。


 真部幸人の案内で軽食がとれる喫茶店に入りテーブルを囲み席につき、メニューを注文した後、さっそく幸人が話題を切り出した。

「真智子さんは慎一君と一緒に暮らすことになったんだってね」

「はい。つい先日そういうことになって……」

「慎一君はついこの間、ハンガリーから帰ってきたばかりで、まだ学生なのに焦りすぎだと思わないかい?真智子さん?」

「確かにそうかもしれないですが、慎一さんの身体のことも心配だし、私は慎一さんと一緒にいれるようになるのは嬉しいです」

「そう、それならいいけど、ふたりとも私よりずっと若いからさ。それに仕事柄、いろいろなケースで相談を受けたりしているからね。まあ、仕事のことは具体的なことは内緒だけど、ふたりとも何かあったら、いつでも相談に乗るからね」

「叔父さんのお陰で、今度入ることになった防音設備付きのマンションにもすぐに入れることになったんだ」

「そうなんですね。ありがとうございます。慎一、マンションが早く決まってよかったね」

「うん、叔父さんには昔からお世話になりっぱなしなんだ。叔父さんのお陰でこっちに来れたし、住むところで悩まずに済んで、音楽の道を追及できたからね」

「慎一君とは昔からの付き合いだからね。まだ、幼かった頃の慎一君のことも私はよく知ってるし、慎一君のピアノも昔からよく聞いていたよ。お母さんの由紀子さんや美津さんのこともよく知っててね。高校卒業までは一緒に暮らしていたからね」

「以前から気になってたんですが、叔父さんは付き合ってる人いないんですか?」

「付き合ってる人?もちろん、友達はたくさんいるよ。仕事付き合いもあるからね。でも今、住んでるマンションで一緒に暮らしたのは慎一君、君だけだよ」

「えーっ、真智子の前でそう話をふりますか。実は誰かいい人いるんじゃないですか?」

「もちろん、好きになった人も憧れた人もいたし、親しくなった人もいるけどね。これから一緒に暮らしますって人は今はいないかな。もう、三十過ぎてるし、早く結婚相手、見つけろよって兄貴にも言われてるんだけどね、慎一君に先越されたね」

「真智子のピアノを聴けば、僕が真智子を選んだ理由がきっとわかりますよ。真智子のピアノは人の心を包み込む魅力があるんです。落ち着いたら、そのうち僕たちの演奏を聞きにきてくださいよ」

「いいね。慎一君と真智子さんは音楽を通して結ばれているんだね」

「はい。慎一さんのお陰で私は音楽の道を追及できたと思っています。大切な先生でもあるんです」

「私にもそんな風に思ってくれる人が早く現れないかな」

「そんなこと言って、もう、何人も現れているんじゃないですか?叔父さんにお世話になっている人、たくさんいる気がするし」

「ま、仕事とプライベートは別ってことで。真智子さんのお友達とか知り合いで、いい人いたら、紹介してくださいって言いたいところだけど、ちょっと年の差が気になるところかな?」

「そうですね……。お仕事が弁護士さんなら申し分ないと思いますけど……失礼ですが、年はおいくつですか?」

「今、三十四歳。慎一君とは十五歳の年の差かな」

「そうそう、真智子とも同じ年の差ってことになるよね」

「兄貴とは十歳の年の差だから、私と慎一君も叔父と甥といっても兄弟みたいな感じかな?それにしても慎一君はハンガリーから無事に戻って来れてよかったな。あの時は兄貴もほんとうに慌てて、ハンガリーまで迎えに行ったんだよ。由紀子さんが亡くなったのも急なことだったから、思い出したんじゃないかな。これからも持病のことでは無理しないように気をつけないといけないよ。真智子さんも気をつけてあげてくださいね」

「はい。私もあの時は連絡がとれなくなって心配だったんです。でも今こうして一緒にいれるし、再会できてほんとうに良かったです」


 三人はまるで昔馴染みのように話が弾み、真智子の緊張もすぐに解けて和やかな時間が過ぎていった。

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