4-5 ハンガリーのブタベストへ

 ―そして時は確実に進み、慎一はリスト音楽院があるハンガリーのブタベストに向けて出発した。


―真智子、今、ハンガリーのブタベストに着いたよ。こちらは夜だけど日本とブタベストの時差は8時間だから、そちらは朝かな?今夜は今からホテルに泊まって、明日、リスト音楽院を訪ねる予定。じゃあ、また連絡入れるよ―。


朝、真智子が起きて、携帯を見ると慎一からのメッセージが届いていた。


―無事に着いてよかった。さっそく、連絡、ありがとう。これからもお互いがんばろうね―。


真智子は慎一に返信した。


 それからも慎一からはときどきでメッセージが届いた。慎一はリスト音楽院で芸大のOBを紹介され、そのOBを通してアパートを借りて、ブタベストでの学生生活をはじめた様子だった。メッセージにはブタベストの風景やリスト音楽院の写真などが添付されて送られてくることもあった。メッセージにはもちろん、リスト音楽院での出来事や先生、音楽仲間のこともときどきで記されていた。演奏会やコンサートにも参加し、コンクールを目指して、ピアノの練習を続ける日々を送っているとメッセージにはあった。真智子も桐朋短大での日々を送り、ふたりの心の会話は続いた。



―そうして半年が過ぎた―。


 慎一はリスト音楽院主催のコンクールでも入賞の実績を作ったので、半年のコースで芸大に戻るか、それともレベルアップを目指してリスト音楽院でのあと半年のコースを選ぶか迷っていた。季節は二月の寒い時節を迎えていた。


―……よく考えてこれからのことを決めるつもりだよ―。


このメッセージが届いた日を境に慎一からのメッセージが途絶えた。


 もちろん、今までにも多忙な時にはメッセージが届かないこともあったのだが、どんなに忙しくても一週間以内にはメッセージが届いたのに、もう、一ケ月半以上になる。季節は春を迎えていた。


真智子は慎一から届いた最後のメッセージから二週間め頃まではきっと忙しいに違いないと思い、メッセージが届かないのが気になりつつ、待っていた。その間、真智子からもメッセージを送ってみたり、電話をかけてみたりもしたが、メッセージは既読にさえならず、電話も留守電になってしまうという状態が続いた。一ケ月が過ぎた頃から、慎一に何かあったはずだと心配でたまらなくなったが、さすがに芸大や留学先のリスト音楽院に尋ねてみる勇気はなく、それでも携帯電話が解約されているわけではないことに一抹の希望を持ち、慎一からの連絡を真智子はただひたすら待ちながら、桐朋短大でのスケジュールに追われた。

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