2-2 晩秋のランチ
「もう、そろそろここでのランチもお預けだね」
昼休み、ベンチに座るとまどかがぽつりと言った。校庭の銀杏の木の葉は緑から黄色にすっかり色付き、季節は晩秋の装いを見せ始めていた。
「そうだね。風邪ひくと困るし、今日のランチが受験前の私たちふたりの最後の晩餐にする?」
「まあ、一緒にランチするのをしばらくやめるってだけで、学校では会えるし、携帯でも連絡取り合えるし……しかたないよね」
「まどかも追い込みだからね。まどかは理系だから大変でしょ」
「まあね、なんかもう、勉強してもしても追いつかない感じだから……。修司みたいに推薦が決まってる人たちとは違って……。ところでさ、真智子は真部君と実際のところどうなってる?けっこう噂になってるんだよね。真部君と真智子が一緒にピアノの練習してること。ふたりは付き合っているんじゃないかって。修司ももう勝手にしろっ、俺は知らねえって投げやりなこと言ってたし」
「そうね……。一緒に練習してるのは確かなことだし、慎一のピアノの演奏は素晴らしいって思ってるし、とっても憧れる……。だけど、受験が終わったら、慎一は別の世界に行ってしまう気がする……。だって、第一志望の芸大には慎一は受かっても私は受からないと思うし……。どんなにしても慎一のレベルには追いつけないことをひしひしと実感することもあるし……」
「そっか……」
「そうだよ。慎一と練習しはじめたことはよかったと思ってるし、慎一は確かに今は優しいけどね」
「うん……。真部君は実際のところ真智子のことどう思っているんだろうね……一緒にピアノを弾く仲間としては認めてくれてるってことはよくわかるけど……、それじゃなきゃ、今まで続かないよね」
「慎一ははじめて会った時にこう言ったの。君のその柔らかな感性で僕の心も包んでくれないかなって。はじめは何を言ってるんだろうって思ったけど、練習を続けるうちに慎一はそれまで寂しかったんだなって、なんとなくわかったし、音楽仲間として認めてくれてることは嬉しいと思ってる。だから、今はそれで充分だと思うし、一緒に頑張ってるけど、受験の後のことまで考えると、あまり思い過ぎても傷つくのは私なんじゃないかって思うし……」
「真智子がそう思うなら、今のままでいいんじゃない?それに受験期だから、あまり他のことで悩みたくないよね」
「そう。今は受験に向けて頑張ることが大事だよね。ところでなんか深刻な話になったけど、まどかも何かあった?」
「私?私は何もないけど、気になることはいろいろあるよね。でもさ、受験期だから勉強に専念しろって自分に言い聞かせつつ、ときどき音楽聞いたりしてストレス解消してるかな」
「ストレス解消に音楽室にも招きたいところだけど、まどかは放課後は塾だよね」
「そう……。音楽室に聞きにいったら、いちころで寝ちゃうかも。だって真智子たちが弾いてるの、クラシックでしょ?塾でも眠気との闘いが大変でね」
「奏者としてはいつでも真剣でけっこう聞くのもドキドキするんだけどね」
「わかるよ。私もピアノは弾けるから。だけど、合唱祭以来、ずっと弾いてないし、今度はいつ弾けるかなって感じで、時間に追われてるのが悲しい……」
「じゃあ、受験が終わったら、私の演奏聞いてよ。それまで頑張ろう」
「うん、これからが大変だけどね。頑張ろうね」
真智子もまどかもこれからはこうしてふたりでほっと一息つく時間が持てなくなるのは寂しかったが、お互いのために気持ちを宥め、それぞれの明日へと心を向けた。
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