19.父親は駆け引きすら出来ねえバカと来た

亜空間が閉じ、辺りは静かになる。


「阿知。」

下を向いたままの彼の肩を叩き、風麻一が頷いた。


「分かってるよ....こうしては、いられない....」

光が腕を引き、肩に腕を回す。


「そういえば、あの白髪野郎はどうした?」

「ああ....実は、逃がしちゃってね」

「ハァッ!?」


光が声を上げれば、二は溜め息を吐く。


「ビル全体にバリアを張って、いつでも分かるようにしていたんだが....反応が多すぎてな」

「無能かよ!?」

「ちょっとアンタ!アタシのパパに何てこと言ってんのよ!数え切れないくらいの数の怪物達を一掃するだけでも大変だったんだからねッ!?」

「アァ?どう考えても無能だろうが!あんな雑魚、一発で俺が仕留めたるわッ!」

「言ったわね~ッ!!アタシだってあんなザコ!!見つけていれば瞬殺だっての!!」


子供達が口論を続ける背後─。

そこには壁に隠れながら、コソコソと話す男の姿があった。


「....お前が身体の中に人を隠せる子じゃなかったら、今頃僕は死んでたよおぉ....」


白髪のスリングは隣にいる白い怪物に頬をすりすりと寄せる。


「ころお....うるさいころお....」

「着ぐるみをイメージしたんだぁ。ほら、チャックを下ろすと背中に入れるんだよおぉ。お前は本当にかわいいなぁあ。たった一匹残った僕の駒ちゃんよぁぁぁぁお」

「....きもいころぉ....」

「アァアァッ!?お前、仮にも生みの親である僕に向かって何だその態度はァァァァッ!?」


スリングが怪物の胸倉を掴み、大声で叫ぶ。

怪物は「そんなおおごえだしたら、みつかるころぉ」と冷静なコメントをした。


「うるっせええええあああああんな馬鹿共に僕が見つかるワケねえだろおおおああああ」


「誰が馬鹿だって?」

「なーるほど。そういうコト」


スリングが振り向けば、そこには目を輝かせた阿知光と、風麻二の姿があった。


「..............へ」

「あーあ....だからいったころぉ....」

「ご、ごめんなさああああああああああああああああああああ」





「さあ....テメェら、”ワード人狼”の始まりだ....!生きて戻れることを、祈るぜェ?」

『ゲーム、スタートッ!!』


一方、夜安達四人は、開始のゴング音とアナウンスの声を合図にゲームを始めていた。


「それでは、カードを配る!」

ハンドが指を鳴らせば、六人の前にそれぞれ一枚のカードが並べられた。


「そのカードに、それぞれキーワードが書いてある。まずは内容を確認しろ」

「おい。ちょっと待て、お前はこのゲームを仕切っているんだろう?つまり....イカサマも出来るってワケだが」


朝日が突っ込めば、ハンドは眉をぴくりと動かした。


「アァ?誰がんなことやるかよ。そんならゲームのルールに追加しといてやる。」

「エッ」

「ハンド!ルールを追加する!これからイカサマをした奴は、誰であろうとその時点で始末しろッ!!そのためこれから監視役を、チェアーに任せるッ!!」


男が叫べば、スクリーンには新たなルールが映し出された。

それを横目で見た夜安が「お前、ズルしようとしてただろ」と小声で話しかける。


「いやいや、ちょっとカマかけてみただけだっての」

「ホントかよ....」

「これで満足か?では、早くカードをめくれ」


夜安はカードをめくり、その文字を確かめる。

そこには【家族】と書かれていた。


(食べ物とかよりかは、マシだったかもな....比較的分かりにくいかもしれねえ)


しかし、これは仲間の誰かが”人狼ではなかった”場合の話である。

もし三人の誰かが人狼なら、まずはそのキーワードが何なのか当てなければいけない。


(しかもその上で、向こうの二人にバレねえように誘導しなくちゃいけねえのか....)


夜安はここで初めて、このゲームの難しさを実感した。

正直言って心理戦はあまり得意ではなく、このようなゲームにも疎いところがある。

朝日に視線を向ければ、こちらを見て、余裕の表情でウインクをした。

呆れながら溜め息を吐けば、ハンドが声を上げた。


「よーーーーし。じゃあまずは、一人ずつヒントをあげてもらおうか」

「ヒント....だと?」

「全員が黙ってちゃあつまらねえだろう。特別にハンデとして俺達からやってやる。そのままリーダーのお前、その息子、着物の息子、父親の順番だ。」


「集団。」

するとチェアーがすかさず割り込み、ヒントを難なく口にした。


「おいおいチェアー。俺が先だろうよォ?仕方ねえなァ....

じゃあ俺は....【争うことがある】だ」


(集団で、争うことがある....争いは喧嘩とも取れるし【家族】でもおかしくない....)


まだ序盤だ。焦ることはない。

夜安は冷静を保ちながら、「【二人以上いる】」と答えた。

続いて朝日は「そうだなァ~【一人の可能性もある】かもな?」と一言。

沙明は「【目的がある】」と告げ、夜安は段々と混乱してくる。


(朝日の奴、何言ってやがる....?一人の可能性?家族なのにか?目的ってのはまだ分かるが....こうなると最初に集団と喧嘩について話した敵の二人は、人狼じゃない....?)


考え込む夜安を横目に見ながら、朝日は頭を抱える。


(父ちゃん!アンタ答えが単純すぎんだよ!その様子だと、どちらにせよ向こうにバレるぞ!多分俺と同じだと思うんだけど....微妙にズレた言葉かもしんねえし)


同じように沙明も二人を見て、冷や汗を流した。


(朝日....お前が父親をフォローしたのが丸分かりだぞ....この類のゲームは得意に見えたが、父親ばかり気にして身が入っていないようだ)


「わー!やっと僕の出番ですね!」

焦る三人を余所に、沙暗が嬉しそうに話し始めた。


「それでは....【仲が良い!】で!」

「は....?」


朝日が思わず呟けば、ハンドはニヤリと笑う。


「父さん....それは....」

「え?何です?ダメでしたか?」


夜安は頭の中で、沙暗は俺と同じだ!と一人で喜んでいた。

ハンドは笑いを堪えきれずに思わず口を抑え込んでしまう。


(コイツら傑作だぜ!ゲームに疎い父親、その父親を心配しすぎて集中出来ない息子!唯一まともな着物の息子は足を引っ張られ、その父親は駆け引きすら出来ねえバカと来たか!)


「では俺だな....【血縁者】。」


チェアーも気が付いたそうで、そう答えると隣のハンドに視線を送る。


(よしチェアー。何とも分かりやすい答えだ。お前は俺とは違うようだな。そしてお前ももうそれに気付いている。と、いうことはつまり....)


ハンドは笑顔を作り、答える。


「【絆が深い】だな。」

(──人狼は俺!そしてお前達のワードは【家族】だッ!)


ハンドはこの瞬間、自らの勝利を確信した。


(後はそれを悟られないよう”お前達の中に潜り込めば良い”!)


勝てる!夜安達を混乱させ、自分以外の誰かを、人狼に仕立てあげれば!

夜安はハンドの答えを耳にし、安堵する。


(やっぱりあの敵達は人狼じゃねえ....と、なると人狼はあの三人の誰か....)


そうすると、あの三人の誰かを、人狼だと気付かれないようフォローしなければいけない。


「えーっと....【殺し合う】で」

「「!」」


(父ちゃん!ミスリードさせてえのは分かるけど!それはやり過ぎ!)

(あんなの....こちら側に人狼がいると言っているようなものだろう!)


「ほーう?こりゃあまた、かなり難解なヒントをブッ込んだなァ?」

驚く朝日と沙明を横目に、ハンドが笑う。


続けて朝日は父親のミスをフォローしようと全く違う方向から【犬】と発言し、呆然とした沙明が【単独行動をする】と答えた。

ハンドは椅子に片脚を乗せたまま座り、大体の見当をつけていた。


(やはりあの着物の息子は上手い。一番初めにチェアーが言った【集団】とは全く別で、尚且つ【家族】から離れたワードを選択したな....まあ、それでも俺が人狼だとは気付いちゃいないが)


次は沙暗の番だ。

彼は楽しそうに笑うと「ええ~!誰が人狼なんですかあ~!」と声を上げた。


「ソレを当てるのがこのゲームだ。ホラ、早く答えろよ」


ハンドはあくびをし、どのタイミングでゲームを終わらせようかと、そんな事を考えていた。


「うーん!そうですねえ!それじゃあ....


       【僕と貴方の関係】。」


「────ッ!?」


瞬間、ハンドの心臓が大きく音を立てた。

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ベビーカー症候群-シンドローム- 淡行マユウ @awaikumayuu

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