宇宙世紀ガ〇ガ←

南 伽耶子

第1話 宇宙世紀ガ〇ガ←

 妻

 1981年は中学卒業。高校受験の年であった。

 年明けに死んだ祖父の葬儀を済ませようやく落ち着いた頃。

 受験先の県立高への入学願書を提出する日である。

 2月22日はそんな日だったのだ。

 そもそもガンダムという番組、山形県では不遇だった。

 山形県に民放は2局しかなかったので、地方局である名古屋放送は本来映らない。

 だが番組ごとに買い付け流すというやり方で見る事が出来た。ただし時間帯は早朝。

 2月22日は東京においてはテレビのガンダム終了から1年、無敵ロボ・トライダーG7も終了した約一か月後であろうが、放送時期も時間もずれている山形では以降の名古屋ロボ群は夕方の時間帯、同じサンライズでも東京12チャンネルの「伝説巨神イデオン」は、早朝の5時半くらいに放映された。

 ガンダムも確か早朝だったと思う。

「おはよう子供ショー」より早い。レッドマンやグリーンマンより早い時間に「助けてくださいシャア少佐ー」とやっていたのを見て、子供たちは朝の始業前部活動に行っていたのである。

 ご苦労なこった、当時の私。

 そんな山に囲まれた受験生にとって、東京は母の言う「女の子が誘拐される都市」であり、新宿アルタは「笑ってる場合ですよ」(「笑っていいとも」の前身) の収録場所。しかも歌舞伎町の入口。

 歌舞伎町と言ったら女子が一人で行くと殺される、太陽にほえろの街である(という誤った知識が、山形しか知らない大人たちによって刷り込まれた)。

 そんな時期なのに、私は当時乱立していた「ガンダム」同人の一つに入っていた。

 アニメック始めとするディープ系アニメ誌は山形県長井市でも普通に書店に並び、その「ファンクラブ同人募集」のページには、今よりもっとゆるーい規制のファンジンが表紙絵と共に紹介されていた。

 田舎の孤独なオタクは餓鬼のように手紙を書いては連絡先に送った。

 健全な部活中学生に擬態する者は、全国に散る同士と手を取り合いたくて仕方がなかったのである。受験なのに何やってるんだ中3の私。

 ちなみに同人誌代には無記名小為替というものを郵送したんだぜ。

 だが主催者も不慣れな子供や良くて大学生、しかもイキりたい盛りである。

 衝突して退会するのなんて日常茶飯事。パクリのホモネタに反発した私に「私達の素晴らしい同人にケチ付けるのかガキが」という電話がかかってきて、両親を大いに心配させた。

 この県境の山々の向こうにもきっとアニオタがいて、心通わせる時が来るに違いないと、悔しさをムッ殺していた。

 旦那と大学で出会うまであと4年。新宿に、アルタに行っても殺されないと知るまであと4年の日であった。

 ちなみにガンダム映画は松竹系だったため、地元の映画館では「寅さん」と2本立てだった。


 夫

 東京生まれの東京育ち、5つ上の兄同様私立高への進学が決まっていた自分は、近所の幼馴染ズと連れ立ってノンビリ遊んでいた。

 もちろん勉強はしたが、それ以上にアニメや特撮もマンガも楽しんでいたし、周囲もみんなそうだったので取り立てて「オタク」と迫害されたこともなかった。

 というか「オタク」という単語が出てきたは少々後じゃなかったか。芦田豊雄の『人生冗談』で。素樽貧(三条陸)の『ヨモスエ警備隊』とか。あ、別誌ですね。

 新宿までは電車で30分ちょいで行ける距離だったが、皆とつるんで遊ぶのは渋谷が多かった。映画館も東急文化会館や駅前の渋谷東映に固まっていたし。

 映画ガンダムは10年後に妻と挙式した結婚式場が入っている、渋谷の東急ビルで見た。と思う。帰りに同じビルに入っていた三省堂レコード店で、サントラを買った覚えがあるから。

 新宿はなんとなく縁遠くてアルタには行かなかったけど「新世紀宣言」はアニメ誌で読んで知ってました。

 代わりに行ったのはプロレス。田園コロシアムの前はよくチャリで行って、伝説のラッシャー木村の「こんばんは」も聞いた。今は異常に会費の高い金持ち御用達のテニスクラブになってるけど。

 その年の秋の、全日本と新日本の蔵前国技館での試合も見に行った。バーン・ガニアのグラウンド主体の技の応酬が渋くて、今のプロレスとは全然別物ですよ。

 あとは日本SF大会。1980年は浅草公会堂で、中坊の自分は行けなかったけど大学生の兄貴は行って、めちゃ興奮して色々教えてくれた。ちなみに81年が伝説のダイコン3ね。

 兄貴の大学の同級には某財団Bのエ〇ーションに入った人や、アニメの演出家になった人が何人かいるから、そういう世代なんだと思う。

 自分の高校時代の同級生にも板野サーカス経由で今バリバリのアニメ監督やってる奴がいる。


 ガンダムの「アニメ新世紀宣言」よりもやってることが支離滅裂だったけど、1982年の「明るいイデオン」の祭りの方がむしろ覚えてる。

 色んなアニメ誌がワルノリっぽくとりあげてたし、いやメックやアウト、ロードが際立ってて、メージュやマイアニは冷静だったかな。

「イデ音頭」とかすごかったです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宇宙世紀ガ〇ガ← 南 伽耶子 @toronamasan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る