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日月中

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鼓膜を劈くような鋭い一音。

彼の腕に操られる弓が、嘗めるようにして弦を嬲る。

幽玄で重みのある響き。しかし、首を締め上げられるような苦しさを感じる音色。

一つのミスもなく、一つの不快も聴衆に与える事なく、曲の佳境に相応しい超絶技巧がせめたてるようにして繰り広げられる。ピアノやオーケストラ伴奏は無い。これは彼独りの為の舞台。広いこのホールに響くのは彼の慟哭。抑圧と嘲笑の世界で生きる、彼の内に秘められた激情の音楽。

その音楽に、"終末"が近づいてきている。彼はそれから逃げることはしない。彼は"終末"に自ら飛び込んでいく。彼は"終末"を望んでいるのだ。

激しいスケールが繰り返される。跳躍する和音、レイピアのような高音のひと刺し。そして、最後の音がホールに響いた。

———誰かが、叫んだ。そして同時に地鳴りのような拍手の音がホールを埋め尽くした。

ぼんやりとした視点の合わない彼の瞳が遠くを見つめ、何かを言おうとするかのように唇が戦慄いているのが見えた。彼の白い額は汗に濡れ、そこから垂れた一筋が頬を伝い顎から落ちるのが見えた。

拍手は鳴り止まない。彼の音楽に取り憑かれた哀れな人々の喝采を、鬱陶しく感じるほどだった。

そして、礼をして舞台から去る彼を見送り、席を立った。

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24 日月中 @atsuki_05

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