結局、安酒が一番うまい

オグリアヤ

安酒よりもおいしくて、人をだめにするもの。

給料日まで土日を挟んで、あと3日ある金曜日。

そんな日の飲み会ほど憂鬱なものはない。

「だよねー!!ほんっと、空気読めって感じ」

そう言って同期は笑ってジョッキを傾けた。

勢いよく飲み込んだ液体は喉元を揺らし、口元にはその名残の白い泡が残る。

チーム全体の飲み会で飲み損ねた2杯目のビールは大層おいしいらしく、その顔には満面の笑みが浮かんでいた。

本当にかわいいなぁなんて思いながらだし巻き玉子に手をつける。箸で崩せばとろとろの卵の中から出汁がじんわりしみ出た。

「A子はさぁ……」

「ん?」

なんだかじっとりとした視線。アルコール混じりの瞳には私の顔がうっすらと映り込む。

「手つきがエロい」

「はぁ!?」

思わず手を止めて箸を離す。「行儀悪い」と咎められたけど、お行儀が悪いのはどっちなんだか。

「あのさぁ……給料日前ってお金ないからすることないじゃん?」

「いや、さっきの言い訳まだ聞いてないんだけど」

「まぁまぁ、これが言い訳につながるのよ」

くだを巻くA子に私は押し黙るしかない。玉子を口に含んで咀嚼する。ぐちゃぐちゃという音にまじるA子の声はどこか色っぽかった。

「だからさぁ……たまんのよ、色々」

「……あっそ」

そう返せば、A子はこちらをちらりと見る。

熱のこもった、その目に私はごくりと唾を飲み込んだ。

今日は23日、金曜日の夜。

給料日まであとふた晩。

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