叫び琴

安良巻祐介

 

 蒐集家として有名な某財産家の邸宅に、呼ばれて出動。

 長年、離れに一人で引き籠っていた主人が昨晩急逝したとのことで、彼が憑りつかれていた、世にも恐ろしい「叫び琴」を回収して欲しい、との家族からの訴えである。

 しかし、除疫の機材道具を揃えて出かけて行った先にあったのは、巷間に曰くの聴く耳を劈くような鬼哭愁々で叫びわめく化け物琴ではなく、どこか幸福そうに目を閉じた、痩せ枯れの故人の枕元で、恐らくは彼が好きだったのであろう「残り月」の節を、静かな音色で奏で続ける、古ぼけた、しかし凛とした一張の琴のすがたであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叫び琴 安良巻祐介 @aramaki88

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ