第402話 パーリーピーポーならぬパーティーバトル!

 結局、砦での手合せは私とレグルスくんと奏くん紡くんの四人パーティー・フォルティス対皇子殿下二人とリートベルク隊長とエストレージャの混成パーティーでと相成った。

 何がどうしてって、奏くんと私が話してたことをきっちり統理殿下とシオン殿下が聞いていて、ロマノフ先生に相談したから。

 ロマノフ先生やラーラさん、ヴィクトルさんも実は実力差に関しては気になってたそうで、じゃあ「フォルティスはいつもの武器禁止で、付与効果無しの練習用使用」って感じになってしまった。

 奏くんにジト目を向けると「ごめんて」とは言われたけど、その顔はちっとも悪く思ってなさそうな上に楽しそう。

 ひよこちゃんや紡くんに至ってはふすふすと鼻息がちょっと荒い。まあ、張り切っていらっしゃるぅー!

 対して、いきなり手合せに参加することになったエストレージャも、これまた何だか嬉しそうだ。


「こういうのってシャトレ隊長が呼ばれるものだと思ってました!」


 ロミオさんの言葉に、シャトレ隊長は苦笑する。


「俺も加わりたくはあるが……バランスが悪い」

「隊長もリートベルク隊長も剣技特化の騎士ですっけ」

「ああ。あまり魔術が使えない者が大勢いてもな。それなら頑丈さで盾役が出来るものを配置した方がいい」


 統理殿下は魔術使える魔術騎士ってやつで、リートベルク隊長とロミオさんは完全に剣がメイン。

 シオン殿下とマキューシオさんが魔術が使える後方要員で、盾役がティボルトさん。バランスは良いよ。

 フォルティスは前衛がレグルスくんだけで、一見すればかなりバランス悪いように見えるんだけど、レグルスくんの剣技は何と全体攻撃かと思うほど広範囲。奏くんも弓に魔術を乗せる事で広範囲もカバー出来るし、懐に入られた所でラーラさんやエリーゼ仕込みのタガーが火を噴く。比喩じゃなく、タガーにも魔術を乗っけられるらしい。

 で、後ろにいる私の付与魔術と防御魔術は簡単には崩せないし、相手の能力も下げられて、痛くない全体回復が出来る。紡くんだってスリングと魔術だけじゃない。私は初耳なんだけど威龍さんに格闘技教わってるそうな。

 街で工事してる時に仲良くなって、週一回威龍さんに通いでお稽古つけてもらってるんだって。頑張ってるね。

 ……待て、私だけ魔術以外なんも出来ないんじゃん!?

 真実に気が付いて、内心白目を剥いていると、ヴィクトルさんに肩を叩かれた。グッて親指立てられたけど、目が「ドンマイ!」って言ってるみたいで……うん。はい、運動音痴が余計なことを考えました。

 私は私の出来る事をしましょうね。

 そんな訳で、砦を一緒に見て回った後で手合せという事に。

 以前来た時の砦は補修工事をしないと土壁が壊れて来そうだったけど、今はそんな心配はない様子。

 土っぽかった壁はきちんと修繕されて、美しく整えられた石の壁になっている。夏は涼しく、冬は暖かく。豪奢に過ぎず、さりとて殺風景ではない。

 そこに長く暮らす人の心情を考慮して、出来るだけ暮らしやすく、かつ居住区は疲れた心を癒せるように血の通った雰囲気だ。

 運動場も、前に来た時は野菜が青々していたけれど、今はきちんと運動や手合せが出来る広々とした広場に整えられている。

 畑の方は新兵の体力作りと、兵士の娯楽の一環として別の場所に移したそうだ。

 一年ちょっと前、レグルスくんが兵士の皆さんにお説教した食堂も、凄く綺麗になっている。

 皇子殿下二人と奏くん紡くんはこの砦に来るの自体初めてで、きょろきょろと辺りを興味深そうに眺めていた。

 シャトレ隊長も穏やかに接してくれてるし、砦の兵士達も終始にこやか。

 去年は誤解と色々があってバチバチしてたけど、今はそんなモノ微塵もない。

 ある程度見て回った所で、少し休憩。


「畑があって自給自足が出来る砦っていうのは、なんか新鮮だね」

「大発生が起こって、一時的に補給が途絶えてもしばらくは何とかなるという事かな」

「まあ、そうですね」


 切っ掛けはそんなカッコいい話ではないけどな。

 でもそれを皇子殿下二人に教える必要はない。だってあれ菊乃井の黒歴史だし。

 隣でお茶を飲んでるシャトレ隊長も、何処か遠い目になってたけどそこはあえて気付かない振りをする。

 他にも殿下方は有事の際の連携や、普段の訓練と実地の戦闘法とかをシャトレ隊長に質問していた。勿論全部が全部話せるわけじゃないけど、差し支えない質問は全て答えていい。そう伝えていたからか、淀みなく隊長も説明してくれたし、書類で内容を知ってる私も改めて勉強になったよね。

 奏くんや紡くんもレグルスくんと熱心に聞いてたし。

 で、ある程度落ち着いたら、先生達に「そろそろやりましょうか」と声をかけられる。

 気分的にはこのままお茶飲んで終わりたい所だったけど、駄目らしい。

 休憩していた大食堂から廊下を抜けて、だだっぴろい運動場へ。

 エストレージャはもう既に愛用の得物をもって、そこで待機していた。

 身体ならしに少し運動していると、統理殿下とシオン殿下、リートベルク隊長は、エストレージャとの連携や陣形の打ち合わせをする。

 こっちは「いつもので」で、作戦的には「ガンガンいくぜ」だ。

 全員で肩を組んでひよこちゃんの「やるぞー!」という掛け声に、皆で「おー!」と返して、運動場の殿下方とは反対側に立つ。

 殿下方も打ち合わせが終わったのか、前衛に統理殿下とリートベルク隊長、ロミオさん、中衛にティボルトさんとマキューシオさん、後衛にシオン殿下の布陣を敷いた。

 立会人はエルフ三先生。シャトレ隊長は審判として運動場に立った。

 シャトレ隊長が双方に視線をやって、それから「始め!」と掲げた腕を振り下ろす。

 試合開始。

 皆が動き出したのに合わせて、私も両手の指にそれぞれ違う魔術──右手の指にはそれぞれ味方への補助を、左手の指にはそれぞれ敵への能力低下の──を溜めて、一気に振り下ろす。

 味方にも相手側にも過不足なく魔術が行使され、その隙に次の魔術──今度は重力操作の溜めへ。

 奏くんが一瞬こっちを振り返った。


「若さま、今の何?」

「いつもはプシュケで五個魔術使ってるけど、今プシュケ使えないから」

「倍じゃん?」

「うん。手加減はするけど手抜きは駄目かなって」


 顔をこっち向けながらでも。奏くんの射た矢はリートベルク隊長の足元に鋭く刺さって、彼の足を止めた。かと思ったらロミオさんと統理殿下を、まとめてひよこちゃんの振るった木刀から発生した剣風が吹き飛ばす。

 前線が下がってしまったのをどうにかしようと、盾役のティボルトさんが前にでる。それを援護するマキューシオさんごと、溜めた重力操作魔術で圧し潰すと、シオン殿下のクロスボウの矢が勢いよく連射されて。

 その飛んでくる矢の全てを紡くんが魔術とスリングでいとも簡単に撃ち落とす。


「あーげーはー!? そういう事が出来るなら先に言ってくれるー!?」

「えー? 聞かなかったじゃないですかー!?」


 シオン殿下が紡くんの礫を避けながら叫ぶのを、普通に言い返す。


「物を五個動かすより、自分の指十本動かす方が遥かに楽ですしー!」

「普通はそんな同時に魔術を同時に何個も打ち出せたりしないんだぞ!? 昨夜もそういう話だったろう!?」

「まあ、でも、うちレグルスくんも奏くんも紡くんも、武器で戦いながら魔術使ってますし?」

「もうそこからして! おかしいって気付いて!」


 統理殿下が会話に入って来るけど、それはほら、ところ変われば品変わるって言うし。

 かけられた重力をそのままに、何とかティボルトさんが立ち上がろうとしているところに、ひよこちゃんの鎌鼬が襲う。それをマキューシオさんが氷で壁を作って防ごうとするけど、奏くんが矢に炎を宿らせ氷壁を砕いた。

 余波に焼かれそうな統理殿下をロミオさんとリートベルク隊長が庇おうとする。その彼らの足元を凍らせた挙句に、水をそこに撒いてやったから、二人は滑って体勢を崩した。

 けど、統理殿下はその二人を踏み台に、ひよこちゃんに一足飛びに近づくと雷を纏った木剣を振り下ろす。

 させるか!

 意気込んでひよこちゃんの前面に物理・魔術両面の障壁を張れば、統理殿下の振り下ろした木剣が勢いよく弾かれて。


「やぁぁぁっ!」


 裂ぱくの気合でひよこちゃんが統理殿下を木刀ではじき返した。

 その木刀が当たる寸前、統理殿下は自ら後ろに飛んでニヤリと笑う。

 それまで黙ってみていた兵士達から、どっと歓声が沸いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る