第375話 親子二代の挑戦への始まり
この日はおやつを食べて、ラーラさんとヴィクトルさんの魔術の授業を一緒に受けて、夕飯やらなんやらで、空飛ぶ城のゲストルームに皇子殿下方をご案内して就寝。
魔術の授業にはアンジェちゃんとラシードさんが参加したけど、ここでラシードさんと皇子殿下方は初めましてだった。
最初皇子殿下方はラシードさんの角に驚いたようだけど、彼の身の上話を聞いて物凄く難しい顔をされて。
兄弟同士で諍いで命のやり取りっていうのに衝撃を受けたのかと思ったけど、そうじゃなくて「もっと根深いモノがある」ってことに即座に気が付いたからみたい。
ラシードさんもこの国の皇子殿下方が結構気さくだったことに驚いたようだ。
ラシードさんと皇子殿下方の魔術の腕前は同等くらい。両方「歳にしてはやるほう」という、ラーラさんヴィクトルさんの評価だ。
その評価に対してラシードさんと皇子殿下方が、机を並べて講義を聞いていた私の方を見たけど知らんがな。
私は姫君からいただいた仙桃やら蜜柑やら、氷輪様からのお水でめっちゃ強化されてんだよ。口が裂けても言えないけどな!
というか、それを言い出すと先生達やレグルスくんもそうだし、なんなら使用人の皆さんもそうなんだ。
その中には勿論ラシードさんも入るんだけど、そんな彼が殿下達と同じくらいって言うのは、偏に彼にかけられた封印が強いって事なんだろうな。
授業の後でこっそりヴィクトルさんに聞いてみたけど、私の推測が正しいって言ってたし。
ただその封印も、若干今のラシードさんの全てを封じることが出来なくなってきているとヴィクトルさんは言う。
その辺りは一回イフラースさんと話し合わなきゃだ。
封印が外れることでラシードさんの命に何か関わるのであれば、封印の強化を考えないといけないし。
でも、それだって急に外れたりすることはないみたいだから、急がなくてもいいだろう。
とりあえず、授業に関しては皇子殿下方も楽しめたようで「宰相の授業によく似てた」と笑ってた。
ヴィクトルさんによれば「けーたんが僕のやり方を受け継いでるだけ」だそうな。
そうやって今ある物は過去より受け継がれてきたんだ。
それはそれとして、皇子殿下方には空飛ぶ城のゲストルームは滅茶苦茶好評で。
私はよく解んなかったんだけど、統理殿下の部屋の飾りにされてる鉄の鎧が、何某とかいう超がつくほど大昔の英雄のそれだったんだってさ。
シオン殿下のお部屋は見事なタイル張りで、神話の有名な一場面でそれはもう超絶技巧としか言いようもないモザイク画なんだよね。
たしかフェーリクスさんが「この城自体が貴重な文化・歴史的研究資料」って、物凄くほくほくしながら言ってたのを思い出した。
実は私、この城の事をあんまり知らない。
城に関心がない訳じゃなくて、寧ろありありだからこそ、あんまり入れてもらえないんだよね。
一人で入ったら最後、呼んでも帰って来なさそうっていう理由で遠ざけられてる。間違ってないから、レグルスくんと一緒にフェーリクスさんのお時間がある時に城の内部を探検してたり。
学者さんだけあって、その解説が面白くて!
それでやっぱり時間を忘れて、二人して帰って来なくなるから、その度に宇都宮さんに探しに来られるんだよ。宇都宮さんにはレグルスくんセンサーが付いてるから。
そんな訳で、私はあんまりこの城に詳しくない。ただ、非常時の避難経路はばっちり頭に入ってるけどね。
殿下方はお泊りの間は、私もここで過ごす。レグルスくんも私の泊まる主の間でお泊りだ。
主の間のベッドって結構大きくて大人三人余裕で寝られそうだったから、子ども二人は当然楽勝。
で、空けて翌朝。
何時もの時間に私が起きると、レグルスくんも起きてくる。
「おはよう、レグルスくん」
「……はよう、ござましゅ」
「まだ眠い?」
「うぅん……おきる……」
両手を上につき出して伸びをすると完全に目が覚めた。
レグルスくんも同じなようで、にかっと笑う。
部屋に備え付けの洗面台を交互に使って、顔を洗えばサッパリ。
着替えはレグルスくんも一人で出来るし、前の日にちゃんと用意していたものを着ると、お互いに身だしなみのチェック。
「にぃに、れー、ちゃんとできてる?」
「うん。ボタンもループタイも完璧だよ」
「にぃにもかんぺき!」
「ありがとう」
さて、今日も一日励みますか。
そう思ったところで控えめなノックが。
ロッテンマイヤーさんが屋敷から来てくれたようだ。
皇子殿下方の所には宇都宮さんとエリーゼが行くことになってる。
あくまでお忍びの形式を崩さないってのは結構大変で、殿下方を普段お世話しているメイドや侍従はこっちに来てない。
うちのやり方に口出しをしたら、それはもうお忍びじゃなくなるもんね。
そういう事だから、あくまで普通のお客さんとして扱うのがこの場合は正解。
それは皇子殿下方も解っておられるから、エリーゼや宇都宮さんに案内されて食堂に来ていた。
勿論私達もロッテンマイヤーさんについて食堂へ。
言うても菊乃井の屋敷に移動したけどね。
城の調理場、なんか使い勝手良くないみたいだったので、食事だけは菊乃井の屋敷で取ることになってる。
先に先生達やフェーリクスさんがテーブルについていたから挨拶する。
席に着くとロマノフ先生がにこやかに「昨日のことですけど」と切り出した。
本日の朝ご飯は焼き立てのバターたっぷりクロワッサンと野菜のサラダの半熟卵添え、軽く炙ったとろとろチーズに同じく炙りベーコン。スープはアスパラガスのポタージュだ。
「陛下から『その話は報告されていた。受け入れてくれるのであれば助かる』ですって」
「……ご裁可が下った、という事で?」
「そうですね、長い息を吐いておいででしたけど」
そらな。
近衛が自ら足手纏いになるって申告するとか、異常だし切実なんだよ。報告が陛下に上がってない訳ないな。
なら本腰入れて、この件は処理しないといけない。
食事中だけど、ロッテンマイヤーさんにルイさんへご裁可があったことを伝えてもらうようにすると、殿下方二人が真面目な顔でペコっと頭を下げられた。
「無理を聞き入れてもらってありがとう」
「この件に関しては、絶対に邪推されないようにするよ。ありがとう」
「はい。でも、まあ、邪推は何してもされますからね。それよりは殿下方の足場固めにしていただいたらいいです。国家認定英雄の戦闘訓練を皇子殿下二人も受けた……とかで」
ちらりと先生達の方を伺えば、ロマノフ先生が首を傾げる。
その様子にヴィクトルさんが「ああ」と呟いた。
「いや、この子たち鬼ごっこしたいんだって」
「おやまあ。それは構いませんが、汚れてもいい服を用意してますか?」
聞かれた殿下達は「今着ているものなら」と答える。
どんなだったっけと殿下達の方を向けば、滅茶苦茶生地の良いシャツと乗馬用ズボンに似たものだった。
いやいやいやいや。
「それで泥だらけになって帰ったらお城の人達泣くんでやめてください」
「え? これじゃだめか?」
「そう? これが僕等の運動服なんだけど」
「おぅふ、環境の違いですね。その時はウチのツナギを貸し出しましょう」
皇子殿下にツナギ着せるってどうかと思うけど、泥だらけにしていい服じゃない。
そんな話をしていると、ロマノフ先生が淡く笑ってこちらを見ている事に気が付いた。だから「先生?」と呼びかけると、先生はどこか楽しそうに殿下方二人に視線を送る。
「いやぁ、君達のお父上とロートリンゲン公爵ともよく鬼ごっこをしたな……と。泥まみれで半べそかいてましたけどね。君達はどうなるかな? 因みに君達のお父上は、君達の歳では逃げ切れてなかったですよ」
わー……やる気でいらっしゃるよ、先生。
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