第303話 弟子のえげつなさの六割くらいは師匠達のえげつなさで作られています
この世界におわす神様は八百万とは言わないけど、数多。
その中で巨大な力をお持ちなのが姫君様を始めとした六柱の神様だ。
けども人間というのは想像力というのか妄想力というのか、そんなのが強いせいで、時々そんな神様いないよっていうのを作るそうで。
古の邪教というのも、その妄想力過多な誰かが作り出した神様を祀る宗教集団だったという。彼らの正式な名前は残されていない。
あまりにも残虐な行いをしたために、あらゆる国家の敵として記録を地上の何処にも残させない
それでも長命のエルフやドワーフなんかが、その残虐さを覚えていたり、楼蘭教皇国の上層部だけが見られる何かを残しているんだとか。
だけど記録抹消なんて刑罰のせいで表には出せない。そのため、私たちが知るのは古の邪教ってだけで、宗教団体の名前も崇めていた似非神様の名前も知れないのだけど。
でもこの法律良くないよ。本当に悪い物なら逆に検証して、二度と同じ団体を作らないように教育した方がいいと思う。
……じゃなくて。
この邪教の事をブラダマンテさんは知っていた。
と言うか、捕まえた男の様子のおかしさからブラダマンテさんは古の邪教に通じる何かを感じ取ることが出来たって事は、彼女は古の邪教についての情報を持ってるって事。さすが伝説の巫女様だ。
「で。先生たちも私に防備を固めさせようというんだから、その教団の事をご存じなんですね?」
「そうですね、普通よりは……ってところですが」
「うん。まあ、エルフの里では見てもないのに見てきたように話す人がいるからね」
人間はこんなに残酷なことを平気でする生き物なんだから、相容れなくて当たり前。寧ろあんなものに興味を持つなんて品性を疑う。
古の邪教はエルフの里では、人間のネガティブキャンペーンに使われているそうだ。
でも先生達は「そんな事言ったらエルフだって過去、人間を愛玩動物みたいに飼ってたこともあれば、集落を遊びで焼き討ちしたことだってあるじゃないか。そんなのお互い様だし、力の弱い人間相手に遊びで暴力をふるってたのは品性下劣じゃないとでも?」と思っていたし、尤もらしく語る人にはそう反論して黙らせていたそうな。つおい。
そして先生が警戒しているのは、その邪教の残虐行為にあるんだとか。
「何したんですか?」
「魔術の使える子どもの四肢をもいで箱に詰めて、武器として使用するんです」
「!?」
「『その苦痛から逃れたくば、神の敵を数多殺めよ』と言い含めて敵中に放置して、魔力が底をついたらその子もろとも爆発する呪いをかけるという惨いものだそうですよ。君に手出し出来る者の方が少ないでしょうが、念のため」
「いや、それ、私よりレグルスくんとか奏くんとか紡くんとかアンジェちゃんのが危ないじゃないですか!?」
「君がまともに魔術を使えるなられーたんやかなたん達を守りながら、僕達の救援まで粘れるでしょ?」
「意地でも粘りますけど!」
自慢じゃないけど防御ならどんだけでも粘れるからね!?
というか、そんな奴ら滅んでしまえ。あれ、でももう滅んでる……筈だよな。
記録も余さず抹消されていて、一般人には見られないようになっている。それなのに、なんで?
それもあるけど、秘薬ってなんだ?
思った事を口にすると、ロマノフ先生が溜息をついた。
「秘薬は飲ませることによって、対象者を意のままに操ることの出来る薬だそうで、麻薬の類だそうです。これの成分に関しては、当時の事を知る人がその秘薬を改良して、よい麻酔薬を作ったんだそうです。その過程で成分が残ってしまったらしく、対抗策として解毒剤も作られています」
「そうなんですか……。それで秘薬の症状をブラダマンテさんが知っていたのは?」
「彼女が活躍してた頃に、その秘薬を使った愚か者がいて、鉄拳制さ……じゃない、説法して改心させたんだってさ」
「物理の説法……!」
巫女さんってそんなとこまで説法(物理)するんだ。それともブラダマンテさんが特別なのか。
閑話休題。
火神教団の革新派とやらはそんなものにまで手を出したのか。それを知ってたか知らなかったかで、穏健派との接し方を考えないと。
「にぃに……」
心配そうにレグルスくんが私の服の裾を握る。
レグルスくんはこちらが考えるより、年齢よりも理解力があるから、きっと邪教の残虐さも伝わったんだろう。
金の髪を撫でて「大丈夫」と笑えば、にこっとレグルスくんも笑ってくれた。
火神教団の革新派がどのくらい古の邪教のやり口に近づいてるか知らないけど、このままではおかない。
そもそも私の寝所を荒らした罪は償ってもらってないんだから、それ相応のお返しはするつもりだった。
貴族は侮りを良しとはしないし、侮辱は相応の贖いをさせるもの。
前世のやが付いたりマが付いたりする自由業も真っ青な世界なんだからな!
とりあえず今後の方針としては根回しを帝国の上の方々にして、穏健派が革新派と古の邪教の関りをどのくらい把握しているか威龍さんに確認が妥当だろう。
もう本当に嫌になるくらい後ろ暗い事ばっかりじゃん。これを見越してイシュト様は私に声をかけられたんだろうか?
だとしたら嫌すぎる!
長く深くため息を吐く。
私は先生方にお願いして、屋敷のロッテンマイヤーさんと役所のルイさんに情報共有の使い魔を送ってもらう。同時にロッテンマイヤーさんには私の代理として、威龍さんに革新派と古の邪教との繋がりを穏健派は把握していたのか聞いてもらようにした。
嘘を吐くならそれ相応の報いを受けてもらうし、それは威龍さんの後ろにいる穏健派とやらにもだ。私は取引相手には誠実に相対するけれど、同じくらいの誠実さを求めるタイプなんで。
とりあえずここでの火神教団への対応はここまでだ。
レクスの部屋だけあって魔導書とか何とかが沢山だし、魔術薬なんかもあるそうで、ウサギから逐次説明を受ける。
レクスという人は楽しい事や愉快な事が好きだったようで、何とも言いようのない代物が沢山あって、ヴィクトルさんがジト目になり、ロマノフ先生がお腹を抱えて笑いだすくらいだ。
アクセサリーにしても、なんか山ほどあってその中には矢張り精霊が住んでいて意思を持つ物もいくらかあるという。なんか薬屋箪笥に似た宝石箱がパンパンだったよ。
それで城についてなんだけど、動力源はレクスが亡くなる前に城の地下中央部にある魔石に、ありったけの魔力を込めたものでまだ後四、五年は補充が無くても飛べるそうだけど、補充されなかった場合は帝国と楼蘭の境にある人っ子一人いない砂漠に着陸する予定だったんだって。
これもレクスがウサギに誰もいなさそうな場所を見つけて、そこに移動する魔術をかけておいたとか。
本当に優秀な魔術師には千年の時なんかあって無きが如しだな。
だけど城の主が私とユウリさんに定まったんだから、魔力の注入は私の役目になるそうだ。ユウリさんでもいいんだけど、ヴィクトルさんに言わせるとユウリさんも魔術は使えるんだけど、それほど魔力は多くないとか。
でもこんなに大きな城の魔力を注入するとか、どんだけ魔力が必要なんだろう?
「そうですね、世界を半周飛ぶのに名無しの古竜を二体倒すくらいだと思っていただければ」
「私、名無しの古竜に遭遇したことないので判りません」
ウサギがしれっと答えるけど、そんな例えされても解んないよ。つか名無しの古竜isなに? 名前のある古竜って?
でもヴィクトルさんには解ったようで、ウサギに「分割出来る?」とか聞いてる。答えは「是」で、少しずつでも良いらしい。
「んじゃ、やっちゃおうか?」
「は?」
「大丈夫、魔力を石に『結構疲れた』と思うくらい注いで、次の日も同じくらい注いだら満杯になるから。そしたらこのお城でルマーニュの冒険者ギルドへ、ベルジュラック君の件について返答の督促に行こうよ!」
「ああ、度肝を抜いてやれますね」
何でうちのお師匠さんたちはこんなにえげつないのかな?
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