第304話 厄介ごともお客さんもよく来るよね
「というか、オーナー、ドラゴン倒せるんだな。その方が吃驚だ」
「今日は半分注入したから、およそ一体の討伐に成功しましたね」
「そうなんだよねぇ、あーたんって攻撃魔術使うの怖いみたいだからあんまり行かないけど、菊乃井のダンジョンなら一人で踏破出来るだけの力はあるからねぇ」
「上級攻撃魔術の無差別広範囲効果が怖くて使えないみたいだから、下級の攻撃魔術だけしか使わないけど、プシュケがあるからね」
「いや、先生達もユウリさんも……若さまめっちゃげっそりしてるけど?」
「にぃにー、しっかりー!」
「わかさま、だいじょうぶぅ?」
大丈夫じゃありません、絶賛疲労困憊中につき膝が笑ってます。
大人の皆さんがにこやかに談笑してるけど、私はそれどころじゃなく、疲れ果ててヘロヘロだ。
えげつないお師匠さん達に連れられて、行ってきたんだよ、地下の魔石の安置所に!
そこに行くまでになんだか知んないけど、装飾された地下洞窟と言うか地下洞窟内の小神殿というか、滝はあるわ池みたいになってるわ。
ちょっとした迷宮を探検してるみたいで、レグルスくんは喜んでたけど、その先で魔力をありったけ注入してきた私はズタボロだ。
「それにしても名無しの古竜だって。名前が付いてるのほど強くないらしいけど、それでもたくさん兵隊さん達がいないとたおせないんだろ?」
「しーらーなーいー!」
「若さま興味ないもんなぁ。アレだ、名前付きの古竜っていったらロマノフ先生が昔たおしたやつだっけ?」
ロマノフ先生が倒したのは、たしか国が二個師団を投入しても何ともならなかったやつのはずで、名前は……なんだっけ?
因みに神様が飼っておられる「古龍」は、二本の角に四つの足にはそれぞれ五本の爪、口元に長い髭を持ち、身体は鱗に覆われて首元には逆さに生えてる逆鱗がある、前世でいうところの東洋龍で、ロマノフ先生が倒した方は短い前足、二足歩行が出来る骨格に蝙蝠の羽を持つ、前世の西洋竜=ドラゴンってやつ。どちらにせよ年経てるから「古」なんだとか。
昔は龍もドラゴンも両方とも地上に居たらしいけど、龍の方は数を減らしてもう神様方が飼っているので最後らしい。
ドラゴンの方はいるとこにはウジャウジャいて、同族同士で縄張り争いとかしてるんだって。そんな厳しい状況を生き抜いて年経たって言われるようになった存在は、勿論強い。強いけどそこでまた格差があるわけだ。即ち名前の有無。
他者から名前を付けられ呼ばれるって言うのは、存在を認識された証拠だ。有名になればなるほど、挑んでくる強者も多くなるだろう。それを退けて生き続けてたら、そりゃ強いわな。
名前が付いているのと、付いていないのでは、比べようもない。以上、ロマノフ先生のドラゴン講座より。
「まあ、でも、実際のところ、もしも名無しの古竜に遭遇して鳳蝶君が戦うと決めたならレグルス君や奏君も加わるでしょうし、もう少し消耗しないで終わりそうですよね」
「あー……自分たちは付与魔術で強化マシマシ、古竜は弱体化で能力下げまくり、ついでに出合い頭の油断した鼻っ面を物理障壁でぶん殴るんでしょ? 解るわー、あーたんそういうとこ容赦しないもんね」
「え? オーナーそんなに容赦ないの?」
「ないよ。出合い頭に全力叩き込まれて、古竜が何も出来ないで終わるのが見えるよね」
面白そうに肩竦めるロマノフ先生に若干遠い目をしたヴィクトルさんが答えると、ユウリさんが驚いたように聞き返す。それをラーラさんが肯定して四人の大人の温い視線が私やレグルスくんや奏くんに注がれた。
私のえげつなさとか容赦のなさは、先生達の教育のお蔭だと思うけど、ここは黙っておこう。
とりあえず、ここでの今日の用は済んだので、お家に帰ることに。
道々ユウリさんやラーラさん奏くんと紡くんが見たもの説明してくれたけど、凄いスケール。
なんと小劇場って本当に小劇場で、客席数は最大百五十人くらい。小さいながらもオーケストラピットがちゃんと存在しているうえに。
「せりもあるし、回転機構とかもあった。凄くいいと思う」
ユウリさんが嬉しそうだ.
「この城の改装に携わった渡り人さんて、本当に才能ある人だったんですね」
「さあ? 案外『舞台には上がったり下がったりする装置があった』とか『くるくる回った』って情報で、魔術だのなんだのであったものに手を加えただけかもしれないし」
たしかにあやふやな情報から発想を飛ばして、色んなものを作れてしまう人は極まれだけどいたりする。
レクスもこの城やウサギの魔術人形にかけられた魔術を思えば、そんな人なのかも。
戻った時にはもうとっぷりと日は暮れてたけど、菊乃井の屋敷付近に浮いた城には、日当たりが悪くならないようにもう少し移動してもらった。
巨大な建物だからお隣のロートリンゲン公爵領からでも、もしかしたら見えるかもしれない。驚かせるのも申し訳ないので、急いでロートリンゲン公爵閣下の元にロマノフ先生に飛んでもらって、ロートリンゲン閣下に報告するんだから、もっと上の方にもしておかなきゃダメだろうって訳で、ヴィクトルさんには宰相閣下の所へ行ってもらった。
そして私はというと、待っていてくれてロッテンマイヤーさんと、役所から駆けつけてくれたルイさんと、居間で小さくなっている威龍さんと対面している。
「それで、どうなんです?」
「その……信じていただけるか分かりませんが、某は改革派が古の邪教の秘薬を使用していたなど、初めてしりました。調べが足りず、お恥ずかしい限りです」
「神かけて誓えますか?」
「勿論です! 宇気比でも
盟神探湯というのは神様に身の潔白を誓った後、ぐらぐらと煮立った熱湯の中に手を入れるっていう神明裁判の一つだ。真実潔白なら、神様の思し召しで火傷しないけど、嘘だったらまあ酷い事になるよね。でもそれをしても威龍さんは自身の潔白を主張したい訳だ。
それだけ古の邪教に関係あると思われるのは不名誉なことなんだけど、問題は彼の後ろにいる穏健派の上の人たちで。
さて、それを掴んでいなくて本当に知らないのか、知ってて隠すためにあえて威龍さんに教えていないのか……。
前者だったら取引相手としては頼りないし、後者ならば手を取るに値しない。
考えていると、ルイさんがこそっと私に耳打ちする。
「男の方はブラダマンテ殿が手当てをしてくれていますが、何分強力な薬なので解毒薬がないと完全な解毒には至らないそうです」
「魔術での解毒は?」
「秘薬に使われている材料の中に、魔術を使うと解毒どころか中毒症を酷くするものが使われているらしく、水を飲ませて薬を早く体内から出させることが一番の対処法だそうです」
「厄介な……」
「厄介なのはそれだけでなく、解毒薬を作れる者が少ないことです。薬師の中でもその薬を調合できるのは一握りの優秀な者だけで、この周辺には……」
ルイさんが珍しく苦々しそうに顔を歪めて、首を横に振った。それはつまり、解毒薬の調合が出来る優秀な薬師の不在を意味する。
ならば男には自力で頑張ってもらうしかないな。ブラダマンテさんが体調を崩さないようにバックアップを手配しないと。
顎を手で擦っていると、ロッテンマイヤーさんが威龍さんをちらりと見る。
「旦那様、威龍様には上役に至急に連絡をとっていただいた方がよろしいかと」
「そうですね。威龍さん、至急そのように」
「は、承知いたしました!」
私の言葉に威龍さんがソファから勢いよく立ち上がって、扉に向かおうとする。
と、扉の方がノックされて先に開いた。外にはエリーゼが静かにいて。
「旦那様ぁ、お客様で御座いますぅ」
「うん?」
「『大根先生』と言えば旦那様には伝わるからとぉ、丁度玄関にいらしたラーラ様がぁそう仰られてぇ。お客様のぉ応対もしてくださってますぅ」
おぉう、千客万来!
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