第301話 突撃訪問、天空の城!?

 魔術人形のウサギに許可を貰ってプシュケをフヨフヨ飛ばして眺めたお城は、前世ならノイシュヴァンシュタインやらリヒテンシュタイン、あるいはホーエンツォレルンとかそんな名前がついてそうな感じ。

 千年前の様式とはかなり違って寧ろ今様なんだけど、それはレクス・ソムニウムの伴侶となった、彼が助けた渡り人のせいらしい。

 その渡り人は色々と才人だったようで、服飾関係だけでなく建築にも造詣が深く、レクスが元々持っていた城をレクスの趣味を取り入れつつ、改築したんだそうな。

 ウサギに案内されて、私とレグルスくん、先生方、奏くん・紡くん兄弟、ユウリさんで、階段を上る。

 奏くんと紡くんは、源三さんとお家に帰る途中で屋敷の異変に気付いて引き返して来てくれたんだよね。

 それで訳を話したら、探検みたいなものだから一緒に行きたいって。

 ウサギはユウリさんや私が許可したなら「ご勝手に」って。

 そんな訳でとてとてと階段を登りきると大きな門があって、そこをくぐるとまた階段。

 それも登り切ったら今度こそ建物の入口だ。

 これも本当に大きくて見上げても建物のてっぺんも見えない。

 

「門でこれって、中はどんだけ広いんだ……」

「さあ」


 ユウリさんがげんなりしてるけど、私も実はこれだけでげっそりしてる。

 だってお城だよ?

 こんなの貰ったら絶対陛下に報告しなきゃだし、そうなるとレクス・ソムニウムの衣装の話やらマンドラゴラの可能性についても報告しなきゃいけない。

 私は陛下に忠誠を誓っているけれど、でもござる丸を傷つけるような選択をされたら、それは絶対じゃなくなる。

 難しい舵取りになる筈だ。

 次から次へと本当にいろんなことが起きるな。


「……ぃに? にぃに!? にぃに、どうしたの!」

「へ?」


 ぐりぐりとこめかみを揉みつつ考え事をしていたせいか、レグルスくんのお話を聞き逃していたようだ。

 控えの間から広間に来たのは歩いているうちに景色が変わったから解ったけど、なんだろう?

 私の解ってない様子に、レグルスくんが首を傾げる。

 隣にいた奏くんがポンと私の背中を押した。


「なんかこのおしろ、舞台があるんだって。な、ユウリさん!」

「ああ、小型の劇場があるらしい。でもこの規模だし小型って言っても、俺たちが思う小型とは違うかもよ?」

「なんですと!?」


 そりゃ大変なことじゃないですか、やだー!?

 難しい話とかおいといて、早速そこを見に行きたいとこなんですが。

 私がそう言おうとしたのを察したのか、ロマノフ先生に首を横に振られる。


「先に遺産の目録などを確認してからですよ」

「う……!」

「そうだよ。この城にはレクス・ソムニウムの使ってた武器やら魔導書がそのまま残されてるって、ウサギも言ってたろう? 先にそっちを確認しなきゃ」

「そうそう。衣装はレクスの遺言で、彼が亡くなった時に一緒に燃やしたらしいけど、杖やアクセサリーの類は残ってるみたいだからね。まんまるちゃんに合うか確かめないと」


 ぐ、舞台関係では私の背中を押してくれるはずのヴィクトルさんも、悪乗りしてくれるラーラさんまで止めるなんて、これは本当に重大事なんだな。

 しょぼんとしていると、小さな手が二つ背中を擦ってくれる。

 

「にぃに、はやくそれして、みにいこう?」

「つむもおてつだいします……!」


 奏くんもにっかり笑って親指を上げてくれた。

 私はいい弟だけじゃなくていい友達に恵まれたんだな。

 しみじみ思っていると、ウサギが大きな扉の前で止まる。


「こちらが玉座の間です。こちらで手続きをいたします」

「こちらって……?」


 玉座で何するの?

 私もユウリさんも同じことを思ったのか、顔を見合わせる。

 するとウサギは短い前足で玉座の扉を指した。

 よくよく見てみると、扉には大きな二つのくぼみがあって、そこには手の絵が描かれていて。


「そのくぼみにユウリ様と鳳蝶様の手をかざしてください。

「はぁ」

「お、おお」


 ウサギに言われた通り、ユウリさんと一緒にくぼみに手をかざせば、さっとくぼみが光る。

 それに合わせてウサギの目も光って「承認」という声が聞こえた。


「ユウリ様と鳳蝶様の生体情報を登録いたしました。今後レクス・ソムニウムの遺産はお二人の管理下に入ります。目録は主の部屋に御座いますのでご確認ください。詳細はいつでも私に話しかければ、その都度ご説明いたします」


 簡素な言葉にユウリさんが頷く。

 そして、「二手に分かれないか?」と提案された。


「だって正直武器だのアクセだの、城の権利だの俺に言われても……。それより俺はこの城にある劇場の方が気になるし。オケピとかある? 照明やら音響は? 客席数は?」

「じゃあ、そっちはボクとユウリとカナ・ツムで見てくるから、武器の方はまんまるちゃんとアリョーシャとヴィーチャ、ひよこちゃんでみてきなよ」

「そうですね、そうしましょうか」

「僕もそれでいいよ」


 ラーラさんがユウリさんの案に賛成して、あれよあれよという間にチーム分けが出来てしまう。

 そうなると私の未練なんかそっちのけで、最上階の主の部屋へと連れていかれて。

 豪華な執務室や宴でも開けそうな大きな食堂を通り過ぎて、ようやく最上階の主の間に到着する。

 ウサギがプルプルと身体を震わせると、ぼんやりと空間が歪んだ。

 小さな渦のような歪みが仄かに輝くと、そこには二本の小さな鍵が現れる。

 全体は金色、頭の部分に王冠のような装飾に尾を噛む蛇の彫り物があって、ブレードにも細かい彫り物のある鍵で、二本とも私の手にコロンと転がった。


「これは城と主の部屋の鍵です。ユウリ様とそれぞれ一本ずつお持ちください」

「あ、はい。」


 後でなくさないように鎖か紐でもつけておこう。

 兎も角、受け取った鍵で扉を開く。

 鈍い音を立ててゆっくりと扉が開くと、それに伴って室内が少しづつ見えてきた。

 壁を彫り込んで作ったアールコーブのベッドに、天体模型のような置物、それからガラス張りの飾り棚。

 ウサギがピコピコと部屋に入っていくのに、私たちも一緒に付いていく。

 部屋の中は思ったより広く、本棚やテーブルだけでなく、壁に植物らしきものの標本があったり、実験用の器具か何かが置いてある棚も。

 その中で一際、ガラス張りの飾り棚から強い魔力を感じて、私はその前で足を止めた。


「これって……」


 飾り棚の中にあったのは、色が次々変わる宝玉を縦横斜め囲うように真鍮のリングが配されているまるで渾天儀のような飾りがついた、私の背丈より長い杖が。

 ウサギがひくひくとお鼻を動かして、その杖の前で立ち止まる。


「レクスの杖、その名も夢幻の王です。真に貴方がレクスの後継者となれる魔術師であれば、この杖は貴方に見合った形をとるでしょう。そうでなくとも、ある程度レクスの杖は貴方に力を貸すでしょう」

「え、や、別に……私にはプシュケがありますし?」


 つか、さっきから随分迂闊な真似しちゃったけど、本来レクス・ソムニウムの遺産なんか私が好き勝手する前に、お国に報告しなきゃならん事案じゃん。

 ユウリさんを菊乃井でお預かりさせてもらう時に、国益にかなう情報が出たら知らせるべしって言われてもいる。

 レクス・ソムニウムの衣装については鋭意研究中で済むだろう。

 だって材料の目星もついてないんだから。

 でもこの杖やら、そもそも城やらに関しては、まず宰相閣下に連絡してご裁可を仰ぐべきだった気がする。今更って気はしないでもなけど。

 そんな理由で杖に触れるのをためらったんだけど、先生達にはお見通しなようで。


「君のやる事は謀反以外なら、命の危険がない限りは基本的に好きにやらせていいと陛下から言われてますから、気にしなくていいですよ」

「どうせレクス・ソムニウムの後継になれる魔術師なんてそうそういないんだから、気楽に触ったらいいよ。ダメで元々さ」


 え、だから、何でそんなに信頼値が高いの?

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