第236話 幸せを紡ぐための方法を探して
重要案件だって叫んだところで、私が相談する相手なんて限られてる訳で。
翌日、菜園に来てくれた奏くんと紡くんを相手に、ロッテンマイヤーさんの結婚と式を挙げない話と私の気持ちを話してみた。
「どう思う、奏くん?」
「ん~、そうだなぁ。素直に若様がロッテンマイヤーさんのお嫁さん姿見たいって言えばいいんじゃね?」
「そう思う?」
「うん。でもさぁ、ドレスってめっちゃ高いんだろ? 近所の女の子が言ってたぞ」
「そ、それなら私が作るし!」
「お金どうすんの? ロッテンマイヤーさんだぞ? そんなんでぜい金使ったら泣くんじゃね?」
「う! か、稼ぐ!」
「
「ロッテンマイヤーさんも領民だけど……!」
だけど、ロッテンマイヤーさんのためだけにお金を使うのを、彼女は決して喜んではくれないだろう。
だとすると選択肢は限られてくる。
どうしようかと思っていると、レグルスくんがおめめをキラキラさせながら私と奏くんを見ていた。
「どうしたの?」
「あのね、れーギルドにいったらいいとおもう!」
「ギルドって……」
「ああ、その手があったか!」
奏くんがぽふっと手を打つ。
ギルドっていうと、菊乃井には冒険者ギルドしかない訳で。
そこまで考えて、あっと思う。
「あー! 冒険者登録してた! 依頼受ければ良いんだ!」
「そうそう、それでいこうぜ! おれと若様とひよ様でパーティ組んで!」
「奏くん、協力してくれるの!?」
「当たり前だろ!? おれたち親友だし、おれもつむもロッテンマイヤーさんには世話になってるし、おれもロッテンマイヤーさんお祝いしたい!」
ぐっと気合いを入れるように奏くんが突き上げた拳に、私はハイタッチの要領で拳を合わせる。
「にぃにとかなとぼうけんしゃー!」
「つ、つむもぉ! つむもいくぅ!」
「うん! れーとにぃにとかなとつむ!」
きゃーっとレグルスくんも紡くんも盛り上がる。
でも紡くんも行くなら冒険者登録しないといけない。
誰か大人に一緒にギルドに行かなきゃ駄目かな?
そう言うと、はっとして皆で菜園に設置されたベンチで座り込む。
「うつのみやは? うつのみやについてきてもらうのは?」
「アリス姉ちゃんからロッテンマイヤーさんに言われないか?」
「あー……宇都宮さんの立場じゃ内緒は無理だよね」
困った。
困ったけど、なんかワクワクしてる。
それは私だけじゃないようで、他の三人はもうパーティの名前を考え出していた。
「うんと……『にぃにとれーとかなとつむ』は?」
「そのまんまじゃん!」
「つむ、かっこいいのがいい!」
「そうだな、『さすらいの菊乃井ファイターズ』は?」
「私達、さすらってないよ!?」
飛び出てきた単語に思わず突っ込むと、奏くんはにかっと笑って「こういうのはノリだぞ!」と言う。
確かにノリだけども、さすらってないよ!?
っていうか、「さすらい」なんて何処から出てきたんだろう?
一度気になると、そっちに気持ちが行っちゃうのは私の悪い癖で。
「『さすらい』ってなんで……? それよりもパーティの名前……えっと……」
「にぃにはなにがいい?」
「うーんと……」
なんだろう?
レグルスくんはキラキラしたおめめで見上げてくるし、奏くんも何か期待を持った目をしてるし、紡くんもワクワクして待ってる。
色々考えていると、ふわっと首元に柔らかな感触と息遣い。
ひぇっと驚く間もなく、長くて陽光の金に輝く髪が、私の目の前に落ちてきて。
「『フォルティス』ってどうかしら~? 昔の言葉で『勇敢』という意味なんだけど」
「ひょえ!? ばぁば!?」
「!?」
「へぇ! いいんじゃね?」
首元に感じたのは、どうやら女の人の腕のようで、ビックリしてドキドキなる心臓を宥めるように見上げれば、鮮やかな翡翠の瞳の綺麗な女の人──ばぁばなんて呼べないくらい若い、エルフの肝っ玉お母様・ソーニャさんのお顔。
「そ、そ、そそ、ソーニャさん!?」
「はぁい? ばぁば、早速来ちゃったわー!」
「なん、なんで!?」
「あら、だって、近いうちに行くって言ったじゃない?」
「昨日の今日で……!?」
たしかにそんな話はしたけれども。
まだ心臓がバクバクしていて、上手く話せない。
そんな私を他所に、奏くんが口を開いた。
「こんにちは、ソーニャさん!」
「かなちゃん、こんにちは。お久しぶりね?」
「おひさしぶりです! 冬はポンチョありがとうございました!」
「いえいえ、どういたしまして。お隣の小さい子はかなちゃんの弟のつむちゃんね?」
「うん、そう。前に話した紡! 紡、ご挨拶だ!」
「ちゅ、ちゅむ……じゃない、紡です! よろしくおねがいしまつ! あ、します!」
「まあまあ、こちらこそ。ソーフィヤ・ロマノヴァです、ソーニャばぁばって呼んでね?」
にこっと笑うソーニャさんに、紡くんが真っ赤になって恥ずかしそうに、奏くんの後ろに隠れる。
ようやく心臓が静かになってきた。
それを見計らったかのように、レグルスくんがツンツンと服の裾を引く。
レグルスくんの目が「ソーニャばぁばとおやくそくしてたの」と尋ねてくるから、斯斯然々と皆に話せば、レグルスくんも奏くんも紡くんもこくこくと頷いてくれて。
「大きな画面用の布を用意するにしても、置く場所とか見ておかないと、どのくらいの大きさのを用意したら解らないから見に来たの」
「なるほど」
「転移で飛んできたらあっちゃんやれーちゃんが真剣にお話してたから、どうしたのかしらと思って聞いてたのよ」
「ああ、実は……」
やっぱり斯斯然々アレソレどうこうと、ロッテンマイヤーさんとルイさんの結婚話から、私がロッテンマイヤーさんの花嫁姿が見たくて、材料費を稼ぐために皆でギルドに行って依頼を受ければいいかと思ったことまで話す。
すると、ソーニャさんの目がキラリと光った。
「あらあらそうなの~。ハイジが結婚するのねぇ。ソーニャばぁば何にも知らなかったわ~。アリョーシュカったら、一回お話合いしなきゃねぇ?」
「ひぇ!? ソーニャさん!?」
「ああ、ごめんなさいね。でもそうね、ばぁばもハイジのお祖母ちゃんとして花嫁姿見たいしドレスも作りたいわ?」
「じゃあ、一緒に作りましょう!」
「そうね。花嫁さんのドレスもだし、花婿さんの装いも作りましょう」
「あ、そうですね! ドレスばっかり気になってたけど、ルイさんの服も作りたいです!」
きゃっきゃうふふ。
楽しい広がりにソワソワしていると、レグルスくんがまたツンツンと服を引っ張る。
何かと思って首を傾げると、その目をキラキラとさせて。
「ソーニャばぁばにつむのぼうけんしゃのおねがいしちゃだめ?」
「あ、そうか。ソーニャさんは大人だもんな!」
「つむ、ぼーけんしゃなれる?」
「そうねぇ、登録は手伝ってあげられるけど、折角だからアリョーシュカたちにも手伝わせましょう? どうせあの子たちだってハイジとルイさんの婚礼衣装の話をしたら、乗り気になるんだから!」
うふふと笑うソーニャさんに、私達は歓声をあげて喜ぶ。
ロマノフ先生たちが手伝ってくれるなら、費用より素材を集める方がいいかも。
それに先生方にお願いするなら、屋敷の皆にも知らせてナイショで二人のお式を準備出来るかも知れない。
それだけじゃなく、元部下のエリックさんも知れば、ルイさんのお祝いをしたいだろうし。
そういうことを言うと、レグルスくんも奏くんも頷いてくれて。
善は急げと、私たちは冒険者ギルドに行くことにした。
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