第237話 広がるサプライズの輪
さてさてタラちゃんとござる丸もメンバーに加えて、やって来ました冒険者ギルド。
ソーニャさんは先生達に声をかけて後から来るそうで、皆でご挨拶しつつ中に入れば、宇都宮さんとバーバリアンとエストレージャがいて。
千客万来に、受付のロップイヤーのお姉さんが固まっていた。
「ジャヤンタもエストレージャのおにいさんたちもどうしたの?」
「おお。いや、俺らはエストレージャとの再戦前の修行ついでに依頼でもと思ってな」
「俺達は休みを三日ほど貰ったんで、折角だし冒険者としての位階を上げておこうかと」
レグルスくんの質問に、ジャヤンタさんもロミオさんも和やかに答えてくれた。
二組とも冒険者として菊乃井で活躍してくれてるみたい。
ありがたいなぁとホワホワと思っていると、宇都宮さんがすすっと近寄ってきた。
「ソーニャ様よりお話をお伺いして、宇都宮、屋敷の使用人を代表して参りました!」
「ありがとう。屋敷の皆は協力してくれるのかな?」
「勿論で御座います! 私はレグルス様付きだからレグルス様が外出なさる時はお伴できます。他の皆さんより自由に動けますので、託されて参りました!」
ついでに源三さんから、紡くんの冒険者デビューの許可も取り付けておいてくれたそうだ。
紡くんと奏くんが「やった!」とハイタッチするのを見て、バーバリアンの三人とエストレージャの三人が首を傾げる。
「奏坊の弟か?」
「屋敷の皆さんの協力ってなんです?」
「何かあったなら言ってください、若さ……じゃない、御当主様!」
「そうっすよ! 俺たちは御当主様の騎士なんだから!」
「困り事ならワタシ達も力になるわよ?」
「友人として、出来ることがあるなら話して欲しいな」
どっと言葉をかけられて、ちょっと驚く。
私がワタワタしていると、ぎっと扉が開いた。
すると外からソーニャさんが、ロマノフ先生の尖ったお耳を捻り上げながら入ってくるのが見えて。
「ちょっ! 痛いですって!」
「痛いようにしてるんだから、痛いに決まってます!」
「あー……ごめんってば、伯母様」
「わざと知らせなかったんじゃないんだよ、伯母様」
ばつの悪そうな顔をして、ヴィクトルさんやラーラさんが後に続く。
英雄に対するあまりな扱いに一同が絶句していると、ソーニャさんが私を見つけてブンブンと手を振った。
「お待たせー! うちの不良息子達も協力するそうよー!」
「ありがとうございます!」
レグルスくんや奏くん、紡くんや宇都宮さんと一緒に「やったー!」と万歳すれば、やっぱりバーバリアンとエストレージャの二組が首を傾げる。
先生方も来てくださったしと思って、二組にロッテンマイヤーさんとルイさんが結婚することになったのと、二人は式をしないと言っているけれど、私は二人の晴れ姿が見たいと思っていることを説明すると、どっと二組が沸いた。
「そっかー! そりゃめでたいな!」
「うんうん。俺らも色々お世話になってますし、何かやらせてくださいよ!」
ジャヤンタさんとロミオさんの言葉に、それぞれのメンバーも笑顔で頷いてくれた。
こんなに沢山の人が手伝ってくれるとは!
嬉しくなって「ありがとうございます」と頭を下げると、レグルスくんや奏くんも一緒にお辞儀してくれて。
ぽふんと撫でられて、頭をあげるとロマノフ先生やヴィクトルさん、ラーラさんがちょっと恥ずかしそうな顔をしていた。
「ありがとうございます、鳳蝶君。レグルス君に奏君も紡君も。本当なら私達、ハイジの親族が思い付くべきことなのに」
「ありがとね、あーたん、れーたん。かなたんにつむたんも。エルフと人間は文化や感覚が違うの、知ってる筈なのに鈍ってたね」
「そうだね。本人達がいうならいいかってちょっと諦めちゃったもんね。ありがとう、まんまるちゃんにひよこちゃんに、カナにツム」
「いえいえ、そんな……」
本人達がやらないっていうのを、こちらが「晴れ姿が見たいから式をしてください」なんていうのは、単なる私の我が儘な訳で。
ソーニャさんが教えてくれたけど、エルフは結婚式とか晴れ着とかそんなのしないで、郷に生えてる「世界樹」という樹木に好きあった二人が誓いを立てるだけらしい。
それがエルフの常識なら、二人が式をしないことを先生方があっさり受け入れたって、別におかしいことではないはずだ。
寧ろ察してくれたソーニャさんは、流石経験豊富ってことなんじゃないかなって。
それでも協力してくれるんだから、先生方もやっぱり二人の晴れ姿が見たいんだよね。
ああ、でも、エストレージャやバーバリアンに協力してもらうなら、対価とかどうしよう?
冒険者だから指名依頼とか出したらいいの?
解んないことは聞けばいいか。
おずおずとそんな事を聞けば、ウパトラさんに肩を叩かれた。
「何言ってるの? これはリベンジ・マッチの修行の一環だってば。依頼主にワタシ達が強くなってるか確認してもらわなきゃね」
「菊乃井のダンジョンでは見せ場がつくれないんだから、それ相応のダンジョンで確認してもらわないとな。その過程で君たちが珍しい素材を見つけたとしても、それはそれだけだ」
カマラさんもにやっと笑って、私の肩に手を置く。
エストレージャの三人も笑って。
「俺らも隊長から『負けるな』って言われてますし、強いモンスターがいる珍しい場所に行くのは修行になると思うんですよ」
「そうそう。菊乃井家の騎士として事業に協力するのは当たり前ですし、道中で珍しいものが取れたら、それは御当主様の新しい服飾研究に使ってもらえたらいいかなって?」
「肉とか出たら砦に持って帰って兵士の慰問にも使えますよ!」
三人とも手伝う理由を考えてくれたのだろう。
胸がポカポカしてくる。
じーんとそのポカポカを感じていると、ソーニャさんがポンッと手を打った。
「遠距離映像魔術用の大きな布や、再生用の魔力を詰める用の大きな魔石とか、色々必要な材料があったのよ。そういうのを商会長が直接仕入れに行ったって問題ないわよね?」
「そういう名目があれば、ちょくちょくお屋敷を抜け出せますね。勿論私達やレグルス君、奏君や紡君も」
そうだ。
これからの
私が動き回っても、領主としてやらなければいけないことを疎かにしない限りは、何も問題はないよね。
ぐっと拳を握ると、「皆さんよろしくお願いします!」と声を張る。
同じくレグルスくんや奏くん、紡くんも「おー!」と天に拳を突き上げる。
大人の皆さんも「おー!」と声を上げた。
それを見ていたのか、奥からギルドマスターのローランさんがえっちらおっちらと出てきて。
「なんか知らんが張り切ってんな。体力余ってんなら、依頼受けてくれや」
そう言いつつ、ひらりと私たち子どもにも見易い位置に、依頼書を差し出してくれた。
レグルスくんが、それを声に出して読む。
「とくしゅいらい、アルスターの…も、もり? ……に……モンスターのもく……がたすう……、しきゅう……を……う? にぃに、なんてかいてあるの?」
「うん。えぇっと『特殊依頼:アルスターの森に特殊モンスターの目撃情報が多数発生。至急確認を願う。緊急性があるため複数のパーティでの受諾も可』だって。……何ですか、これ?」
レグルスくんや紡くんは意味が解らないようで、揃って小鳥のように首を傾げる。
私も奏くんも文章の意味は解るけど、この依頼の意味が解らなくて首を傾げた。
でも大人の皆さんは解っているようで、少し静かになって、それから代表するようにロマノフ先生がローランさんに説明を目で促す。
「それがアルスターの森に採取依頼のために入っていた冒険者が数組、あの森にはいない筈のモンスターを目撃してな。普通なら幻覚かなんかだと思うんだけど……」
「思えない要素があるってことか?」
厳つい顔をしかめるローランさんに、ジャヤンタさんが真剣な面持ちで尋ねる。
ローランさんが頷いた。
「アルスターの森で一番強いモンスターの
悪鬼熊というのは、かなり強いモンスターなのか、エストレージャとバーバリアンのメンバーの表情が変わる。
でもソーニャさんや先生方は飄々としたもんで。
「アルスターの森は、一年中上質な綿花が取れる樹があったわね?」
「ああ、そういえば……ありましたね」
「綿花って布の材料になるよね?」
「婚礼衣装に使えるかな?」
「どう?」とヴィクトルさんとラーラさんに尋ねられて、ちょっと考える。
綿ってサテン生地の原料じゃなかったかな?
サテンは綿や絹を繻子織りっていう特別な織り方をして作る、光沢のあるサラサラした手触りで豪華な雰囲気があるから、ドレスに持ってこいな布地なんだよね。
「良いと思います!」
いざ行かん!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます