第235話 家族になろうよ
今日の今日って早すぎじゃないですか!?
私がドキドキしていても、ルイさんもロッテンマイヤーさんも普段通り。
食事会だって普段通り進む。
奏くんは紡くんに、レグルスくんは私と一緒にアンジェちゃんに綺麗なお箸の使い方を教えたりしつつ、自分もロッテンマイヤーさんから教えてもらったりして。
時々ロマノフ先生やラーラさんが、料理に使われた食材の野菜やお肉がどこ辺り原産だとか、その食材に纏わる面白エピソードを話してくれたり、ヴィクトルさんが歴史上の人物の食に纏わる話を聞かせてくれたりもした。
そんな風に和やかに食事が終わって、食後のお茶に突入。
あまりにもロッテンマイヤーさんも普通だし、ルイさんも普通だし、今日の今日はやっぱりないんだろう。
お茶を飲み終われば奏くんや紡くん、アンジェちゃんはお家に帰る時間だ。
ラーラさんとヴィクトルさんに送られて帰る、三人の背中が見えなくなるまで手を振って。
私とレグルスくんは、普段通りお部屋でもう少し遊ぼうと、踵を返しかけるとルイさんに二人して呼び止められた。
ルイさんの隣にはロッテンマイヤーさんもいる。
「どうしました?」
レグルスくんと二人、小首を傾げるとロッテンマイヤーさんが何やら戸惑うような仕草で、ルイさんを見上げた。
「我が君。この度、私、ルイ・アントワーヌ・ド・サン=ジュストは、こちらのアーデルハイド・ロッテンマイヤーさんと結婚することになりました」
「へ?」
「え?」
あっさり来た。
あんまりあっさり来たから、何を言われてるのか解らなくなって、お手々を繋いでいたレグルスくんと顔を見合わせる。
レグルスくんと見つめあってしばらくすると、ひよこちゃんが目をシパシパしてロッテンマイヤーさんを見上げた。
「けっこんってなぁに?」
「好きな人同士が、ずっと一緒にいて、お互いを信じ、家族になることです」
「んん? じゃあ、にぃにとれーとロッテンマイヤーさんもけっこんしてるの? うつのみやもエリーゼもアンナちゃんも? げんぞーさんやりょうりちょうやヨーゼフも?」
おぉう、唐突な質問にシリアスが何処かに行ったぞ。
でもそういうこと言われても動じないのがロッテンマイヤーさんだよね。
眼鏡をきりっとなおすと、レグルスくんに向き合うように屈んだ。
「そうでは御座いません。結婚というのは、大人の男性と女性の間で交わされる約束のようなものです。その約束で私とルイ様は新しく家族になるのです」
「れーたちは? れーとにぃにはロッテンマイヤーさんのかぞくじゃないの?」
「それは……畏れ多いことで御座います」
ちょっと困ったように眉が下がっているけれど、ロッテンマイヤーさんの頬っぺたも少し赤い。
家族と言う言葉を否定はしないけど、ロッテンマイヤーさんの立場じゃ肯定もしにくいのだろう。
私はレグルスくんの頭を撫でた。
「私たちとロッテンマイヤーさんや屋敷の人たちは家族みたいなものだけど、その中にルイさんも加わるんだよ。だけど大人はちょっとややこしくて、お約束が先なんだ」
「そうなの?」
「うん。そうなの」
結婚については私も上手く説明出来ない。
だって前世でもしたことないし、今世は七歳だもん。よく分からん。
なので簡単に話すと、レグルスくんは納得したようだ。
私は二人に視線を戻す。
「二人とも、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「ありがとう存じます」
祝福の言葉に、二人が最敬礼をする。
頭を上げるように言えば、ルイさんもロッテンマイヤーさんも少し気恥ずかしげで。
「その……ルイ様からご主人様が、私が結婚しても仕事を続けていけるよう色々ご配慮くださっているとお聞きしました。嬉しゅう御座いました」
「だって、ロッテンマイヤーさんは私の育ての親も同然の人だもの。傍にずっといて欲しいから……」
「はい、勿論で御座います。私、アーデルハイド・ロッテンマイヤーは生涯お側に」
「うん。それにね、ルイさんは良い人だから」
「はい」
「ロッテンマイヤーさんならルイさんを幸せに出来るだろうし、ルイさんならロッテンマイヤーさんを幸せに出来ると思う。だからね、良いかなって」
「はい」
「二人が幸せなら、私も嬉しい」
「れーも! れーもだよ!」
「はい……!」
なんか最後はロッテンマイヤーさんも私も涙声だ。
いや、お別れとかしないんだけど、感極まって泣いてしまって。
ぎゅっと抱きついてくるレグルスくんを受け止めて、空いた片手をロッテンマイヤーさんに伸ばして抱きついても、彼女は静かに受け入れてくれた。
それだけじゃなく、抱きしめ返してくれる。
私達は家族だ。
なのでルイさんに視線を向けると、彼もおずおずと加わってロッテンマイヤーさんの背中とレグルスくんの背中に手を回す。
ぎゅっぎゅとスクラムを組むように一頻り抱き締めあうと、ごほんとわざとらしい咳払いが聞こえて。
振り向くとロマノフ先生やラーラさん、ヴィクトルさんが立っていた。
「私達も交ざっていいと思うんですが」
「うん。だってハイジの遠い叔父さんだし」
「ボクは遠い叔母さんになるのかな?」
ふふっと笑う三人に、私は一瞬きょとんとしたけど、そうだった。
先生方も家族なのだ。
だから「どうぞ!」と手招きすると、ロッテンマイヤーさんとレグルスくん、ルイさんともどもぎゅっぎゅされて。
通りかかった宇都宮さんが声をかけるまで押しくらまんじゅう状態。
皆苦笑しながら、腕をほどくと宇都宮さんがレグルスくんから事情を聞いて、飛び上がって喜んでいた。
「おめでとうございます、ロッテンマイヤーさん!」
「ありがとう、宇都宮さん」
抱きつく宇都宮さんを受け止めて、ロッテンマイヤーさんもルイさんも朗らかに笑う。
おめでたい。
凄く幸せな雰囲気に、春の訪れを予感するワクワク感に似た衝動が沸き上がってくる。
なので、その衝動を口に出した。
「あの、お式とかは? ドレスとかどうします?」
その言葉に、ロッテンマイヤーさんがへにょりと眉を八の字にした。
「庶民は式などは行わないことがほとんどですから」
「私もルマーニュでは貴族でしたが、こちらではもうその様な身分でもありませんし」
思わぬ二人の返事に、宇都宮さんや先生方を見るとこくりとそれぞれに頷かれた。
式をするのはどうやら貴族だけらしい。
裕福な商人もすることはあるけど、庶民は指輪を交換できたら良い方だそうで、結婚式のドレスは庶民の女性の憧れなのだとか。
しかし。
皆、私に素直に思うことを言って良いっていってくれた。
それなら私はロッテンマイヤーさんの花嫁姿が見たい。
これは重要案件だ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます