第4話 未知への探求















 緑の生い茂った天然の道をシルヴィアさんに案内してもらいながら進んでいくと段々と辺りに広がっていた茂みが低くなっていき、目的のものがようやっと見えてきた。目的のもの.............零式改は彼女が言った通り庭の近くにある田畑らしき場所へと着陸、とまでとはいかないが機体は少し地面に埋まるようなかたちでその場所に存在していた。しかし、機体は周りの雰囲気合わずコンピュータのアマチュアが画像を雑に合成した様になっていて、血迷った新聞記者が捏造記事に載せる写真の様だった。




 少々奇怪に感じる所があったりしたが、取り敢えず一旦それらの事を考えるのは止め、機内に常備されているものを取り出し、簡易的に整備したりするために僕はまだ慣れない左腕を使いながらもコックピットへと滑り込むようなかたちで入り込んだ。




 機体の中は外見と比べてみてみるとほとんど故障などは見受けられなかった。が、計器類を確認してみると左翼側の燃料タンクが少しやられていて少量の漏れが確認されたのと機体の下部が岩石に当たった事によって増槽が真ん中の辺りから破裂するように破損していた。そしてこの機体が落ちる原因となったと思われる尾翼は他の部位よりも損傷が激しかったが代用できるものがあれば装甲性は皆無だけども取り敢えず飛行をすることはなんとか出来そうだった。取り敢えず今の所で操縦桿を動かして確認できるのはここまでみたいだ。そう判断した僕は操縦桿から手を離して機内に使えるものが無いか探し始めた。




 そうして先ほどから機内を調べていると外で待機していたシルヴィアさんが声をかけてきた。




 「あの、アキラさん。これってやっぱり空を飛ぶんですか?」




 ふとそのようなことを言われたので僕は少し驚く気持ちもあったが作業の手を止めずに淡々と答えた。




 「ええ、これは空を飛びますけど........」




 そう答えるとシルヴィアさんはさっきまでの少し怖がっているような顔から一転し、まるで子供のように目を輝かせながら機体へと近寄り、まじまじと機体のいたるところを見始めた。そして彼女はうきうきとしたような声でもう一度声をかけてきた。




 「アキラ君ってすごいんだね、私初めて見たわ、『空を飛ぶ乗り物』なんて。」




 それを聞いたときに僕は少し疑問に感じたが、シルヴィアさんは都会に出たことが無さそうな人だったから戦闘機を、飛行機を知らないんだと解釈するようにしていた。しかし彼女の次の発言によってその解釈を打ち消されることとなった。




 「シルヴィアさんは都会に出たこととかは無いんですか?」




 「いや?私は良く都会の方にも出向くことはあるわ。だって新しいものがたくさんあるもの。でも、このアキラさんが乗っているような乗り物を使っている人は見たことないわ。だってこんなものが無くても『空は飛べる』もの。」




 「へぇ.........飛行機が無くても空を飛べるのかあ.........?」




 そこで僕はようやく異常に気付きシルヴィアさんに恐る恐るそのことについて詳しく聞くことにした。それにしても飛行機が無くても飛べる........かなり前に配備されたとかで聞いたことのあるジェットパックとかか、それともかなり昔の技術だけども気球だったりするのか........そうして様々な思考を張り巡らしていると彼女はあっさりと口を開き、とんでもないことを言い始めた。




 「だって、私たちには『クレート』の力があるもの。何かに頼らなくても空を飛べる人はいるわ。でも、それは一握りの人だけなの。どうやら色々と条件があるらしいけど......私には使えなかったわ。一回ぐらい空を飛びたいと思ってね、よく空を飛んでいる人に声をかけて教えてもらおうとしたの。でも、それでも使えなかったわ。でも、こういう乗り物があれば誰でも自由に空を飛べて、とってもいいと思うわ.......」




 「なんだい、そ、そのクレートってやつは。飛行機が無くても空を飛べる......!?」




 「そうよ、って貴方クレートを知らないの?普通はみんな子供の時に教えてもらう事なんだけど........」




 そうして僕は改めてとてつもない星にきてしまったなと再認識した。それにしてもそんな不思議物があるのにどうして機関はこの星を調べてなかったんだろうか...........と、色々と疑問を覚える点がたくさんあったけども彼女にそのクレートとやらの説明をしてもらいながら僕は引き続き機内を調べ始めた。




 あの後様々なことをシルヴィアさんに教えてもらいながら捜索を続けているとダイナモ発電機付きの軍用X型サスペンダーと五式可変型拳銃、そして接続用有線コードと実弾などが座席下の小型格納庫の床に固定されていた。しかし僕は戦闘機の機銃訓練を受けただけでまだ拳銃や小銃などの実弾射撃の訓練は受けていないのだ、使いこなせるかは分からないが無いよりはましだろうと思い持っていくことにした。それにしても僕が乗った零式改は誰かの為に特別に作られたものなのかこのような武器が付いていたが僕が最初の実戦で乗った機体には武器と呼べるものは無かっただろう。だけども僕はあまり使いこなせないかもしれないからな...........あっても無くても変わらないのかもしれない。




 こうして僕は軍用のジャケットの上からXサスペンダーを取り付けて拳銃を収納できるようにし、ぱっと見陸軍課の歩兵の様な見た目になった。因みに彼女、シルヴィアさんに僕の格好を見せてみると鼻で笑われてしまった。まあ、シルヴィアさんの話によるとこの星には軍人というものは鉄の甲冑を着込んでいたりするらしく、僕はどうやら兵隊ごっこをしている子供だと思われたみたいだ............まあ、少し癪に障るが僕もそこまで器の小さい人間じゃないぞ、と顔を真っ赤にしながらも機体から降りて一旦ご飯を頂くことにした...........






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 そういえば最近は貴方も動けるでしょう?と言われ食事をとる時はこっちのシルヴィアさんが住んでいる家の方で食べるようになった。因みに寝る時は看病してもらっていた離れの小屋で寝るようにしている、最近は何とか鏡に映る自分を見ても驚きはしなくなったが無力感にはいまだに襲われる。そのためにシルヴィアさんには鏡はやっぱり退けようか?と言われているがそれではいつまでも慣れないという事で置いたままにしてもらっている。そして、あの鏡が無くなるのは自分の左腕が戻った時だと思いたい。そうして物思いにふけっていると危うく棚にぶつかりそうになってしまい、また彼女に笑われてしまった。そうして自分の服装の事やクレートの事、様々なことを話しながらいつも通り食事にありついていた。




 そういえばクレートの事について聞いていた時にシルヴィアさんが教えてくれたがこの僕が身に着けている義手もクレートの力によるものらしく僕のように治せる見込みのある患者はこのような手術を行わなくても取り付けられる義手を付けるのだという。因みにクレートの力が無いのとあるのとではどうやら安定性での差があるらしく、普通の義手も需要があるらしい。




 そうしていつも通りの食事は終わり、僕は簡易的にシャワーを一番風呂で浴びた後、明日の計画をゆっくりと立て始めだした。ちなみに僕の計画は単純明快なもので鍛冶屋を探すという事だ。彼女の話から多少漏れていたことがあったのだが、ここから少し離れたところにある街には鍛冶屋があるらしく彼女は包丁をそこで作ってもらった事があるらしくそこでなら機体の代用パーツを作れるかもしれないと思ったからだ。取り敢えずパーツが代用出来れば燃料タンクに燃料を注ぎ込むことが出来るし、あわよくば全体的に修理して飛べるようにはしたい..........それと町には単純に興味があるから、という理由で行こうと思う。恐らく行くとなると彼女もついてくるだろうから風呂場から上がったらこの話をしようと思う。








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 昨日の夜、あの後シルヴィアさんにあの話を切り出してみると彼女は町に行くことを快く承諾してくれた。しかしただ単純に許可してくれたわけではない。そう、条件付きでだ。まあ、その条件というのはとっても簡単そうで簡単じゃない事だけども...........その条件とはつまり僕の戦闘機に乗ってみたいという事だった。二人乗るという事はやった事は無いが膝に乗ってもらえれば出来るか、という感じで今は考えているが僕は左腕が治るまではあれには乗れないし乗るつもりもないよ、今のところは。と、いうと彼女は治ってからでいいわ、それに時間はまだまだたくさんあるもの。そう言って僕のちょっとした前提条件を飲んでくれた。




 そのようなやり取りがあった昨日から日は明けて今は朝になっている。少し昨日はうまくいくかという緊張感でちょっと眠れなかったが二時間余り寝れたので良しとしている。因みに空軍課に所属していた時は寝れない日もあったのでここの所は良くも悪くも慣れていた。そうして少し寝ぼけながらも服に着替えシルヴィアさんの居る家へと向かうと彼女は朝食をいつもより早めに作って待っていてくれたようで、既に食卓には暖かい食事が出ていた。どうやら彼女は先に食べてしまったらしく後は僕だけなのだそうで、僕は急ぎ目に食事を頬張る事になった。因みにその後シルヴィアさんにはもう少しゆっくり食べればよかったのに、と言われまたしても笑われてしまった。




 こうして家を出る準備を完了した僕らは万が一の時の為に零式改に全体を覆いかぶせられそうな大きめの布をかぶせた後、恐らくはやる事は無いだろうと高をくくっていた植物を使った機体の偽装を施した。これならば至近距離まで近づかなければ分からないだろう。そうした後は町へ向かう道中にあった近隣住民に軽く挨拶をしながらも淡々と道を進んでいき、比較的大きな橋に差し掛かったところでようやく町というものを目視で見る事が出来た。そうして少し目的地が見えたことで少なからず気力が湧いてきたので最後だと意気込みながら町の入り口に向かってもう一度歩み始めた..............


















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時空戦士アキラ 糸井 康彰 @itoiyasuaki

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