第3話 無くした物の痛み












 格納庫から飛び立ち、追撃をかわしながらも逃走し、ようやく見逃してくれたかと思い安心しようとしたがそれも幾ばくかの間だけだった。追撃を止めたのはしっかりとした理由がある、それはこの宇宙嵐というものは光線や電気的通信の類を遮断してしまうという特殊な空間であるからだ。これは僕が所属していた組織の設立者達が宇宙に進出し、活動をし始めた頃合いに発見されたことらしい。らしい、というのはこの話自体噂話程度でしか聞いてこなかったしこの組織が設立されたのはもう何十年も前のことであるからだ。まだ熟練したパイロットであればこういう事に遭遇したことがあると思うけど、僕はまだ訓練を一通り終えたばかりの新兵、要するにこの前までは机に向かって筆を走らせながら夢を頭の中で繰り広げていた一般人に過ぎないんだ、そんな事知る由もない。




 しかし完全に電子回路の類が使えなくなるわけではなく、しっかりと分散しないようにするために強固なコードを媒体として繋げることにより電子パーツの類はこの宇宙嵐の中でも完璧に動作させることが出来る。いい例はこの機体に繋がれ、今現在作動しているS.R.F機構だ。この機構は宇宙空間での飛行を可能にしてくれ、大気圏内での戦闘と同じような動きができるように調整をオートマチックでやってくれる。だけども無重力空間では上も下も無いため少し気持ちが悪いとあまりこの形式の戦闘機は評判が悪い。しかし、その問題を解決するために重力装置を積もうとするとほとんど機銃やその他の武装を積めなくなり、ただの輸送機になってしまうのだ。そのため渋々この形式の戦闘機に乗っているという現状で僕もそのうちの一人でもある。




 終始様々な事を考えていたが宇宙嵐でいう入り口にあたる部分から入ってしばらくの後、振動がより激しくなり少しうろたえてしまったが、操縦桿を握りなおした。嵐の中では岩石が少なからず漂っていて当たらないようによけ続けなければならない。安定維持装置がなんとか飛行ができるよう繋ぎ止めてくれているがここを抜け出せるまで持つかが分からないので正直なところとてつもなく不安だ。宇宙というのはとても神秘的なものだけども同時に自分しかそこにはいないのだという孤独からくる恐怖を味わうことになる場所だ、今僕もこの先の見えない暗闇を進み続ける事でその恐怖を感じてきている。そして、こんなところ早く抜け出してしまいたい、逃げ出したいという気持ちが高ぶり、肉眼では分からないであろう微量な失敗を僕はしてしまった。その失敗により、岩石に機体の底を当ててしまい、動揺したところでさらに操縦を怠り、尾翼に岩石を直撃させてしまったのだ。そして、安定維持装置を失った機体は縦に回転し始め完全に操作がうんともすんとも利かなくなった。そして段々と気持ちが悪くなり始めてきた僕は体が拒否反応を出し始めた頃合いに突然目の前が真っ白になり、気を失ってしまったのだ。その後の事はあまりよく覚えていないが僕を載せた機体は何処かの星の引力に引かれていったようで、気が付くと僕は暖かみのある木造の天井を見上げていた.........








――――――――――――――――――――――








 ここは何処なんだろうか、僕の知る限りでは木造の建築物だなんて写真なんかでしか見たことが無い。それに零式改も見当たらない。そうして少しベッドから重い体を半分起こし部屋の中を確認していると左腕に違和感を感じた。心なしか左腕がいつもより軽く感じるし、温度も肩の所から感じなくなっていた。そうして僕は薄いシーツをめくり自分の腕を探した。しかし腕はすぐには見つからなかった。そうして辺りを見回した後、自分の左腕の付け根を見た。するとそこにはあるはずのものが無くなっていた。僕はその事実に気づくまでに時間がかかったが気づくと僕は今まで出したことが無いぐらいの声で発狂してしまった。




 しばらくするとここの住人であると思われる人物が入り込み、大丈夫かと声をかけてきたがその住人が持っていた鏡に映る片腕の無い自分を見たときに僕は動揺を抑えきれず、暴れ始めてしまった。しかし住人に抑え込まれ続けたところで段々と落ち着きを取り戻すことが出来た。そこからは住人に詳しいことを聞くことにした。




 「すみません......さっきはいきなり叫んだりしてしまって.....」




 「別に気にしてなんかないわ。だって、腕を無くして動揺しない人なんていないもの。叫んだってそれは当然の事よ。」




 「それならいいんですが.......後、鏡は別の所に置いてくれませんか?まだ、覚悟が出来ていなくて.....」




 そういうと彼女は腕に抱えていた鏡を反射する面を壁に向けて置いてくれた。




 「貴方、あまり幸運ではないかもだけどあの高さから落ちて生きているだけいいわ。腕は無くしてしまったけど貴方は生きているもの。それだけで大手柄だわ。後、貴方の左腕だけど、もしかしたら元に戻せるかもしれないから、まだあきらめないでね。」




 そういうと彼女はベッドの付近に置かれていた椅子から立ち上がり部屋から出ていこうとした。




 「じゃあ、何か食べ物をとってくるから待っていてね、すぐに戻るから――――――




 「あの、一つ聞いてもいいですか..........?」




 「答えられる限りなら、それで?」




 「僕は確か戦闘機に乗っていたはずなんですが......どこに落ちたのか知りませんか?」




 そう聞くと彼女は意外な表情を少しの間浮かべた後、あっさりめにこたえてくれた。




 「貴方の言う戦闘機とやらはもしかして私の家の庭の方に落ちたやつかも、いまいちよく分からないけれど。こう、緑色をしたもので赤い丸印が書いてあったわ。もしかしてそれかな?」




 「それです、恐らくは。それで、どんな感じになっていましたか?もしかして真っ二つに割れているとか.......?」




 「いえ、どうやら地面が柔らかかったからどこも壊れていないと思うわ。でも、今の貴方じゃまだ動けないわ。もう少し回復してからね。」




 「そう、ですか......分かりました。ありがとうございますね。」




 「そこまでの事はしてないわ。それじゃあ、また戻ってきたらお話しましょう?」




 そういうと彼女は部屋から出て行ってしまった。その後彼女は本当にすぐさま戻ってきて、左腕の使えない僕にご飯を食べさせてくれながらも話をしてくれた。彼女の名前はシルヴィア.ベーゼというらしくこの辺り周辺で農業を営んで生計を立てているらしい。両親は僕と似たようなもので居ないらしく、物心が付いたころには養女としてこの村の村長と暮らしていたらしい。そしてここはなんていう名前の星なのか聞いてみると聞いたことも無い名前だったので分からなかった。そうして僕は一つの結論に達したけどもそれはあまり嬉しい事では無かった。この星が未発見の惑星だとするならばどのようにして帰ればいいのかも分からず、最悪助けも呼ぶことが出来ないだろう。まあ、こんな片腕が無い状況で考える事では無いかもしれないが............とりあえず今は出来る事をしなければ。できる事と言えば第一に腕を治せるかどうかだ。




 あれからしばらく経った後、シルヴィアさんが言っていた診療所の医者がやってきて、僕の腕の状態を見てまだ回復させる手はあると言ってくれた。しかしそれを行うためにはある特殊な素材が必要になるらしくこの場所にある物や居る人ではどうにもできないらしい。その辺についてはまた話そうと言われ医者が部屋から出ようとして立ち上がった時に突然何かを思い出したかのような顔をした後に医者は鞄から腕の形をした物を取出し僕にそれを差し出した。




 「これは........もしかして。」




 「そう、腕が無いと何かと不便だろうからこれを、義手を持ってきたんだ。取り敢えず腕が元に戻るまではそれをつけておくといい。取り付ける時は......そうだな、シルヴィアさんに手伝ってもらって付けてみてくれ。フリーサイズだから簡単に付けられるはずさ。じゃあ、私は今日の所はこれで。」




 そういうと医者は部屋から出ていき、ゆっくりと帰っていった。その後にシルヴィアさんに手伝ってもらいながら義手を腕に取り付ける事が出来た。義手自体はとても角ばっていて、まるでロボットのアームのようだった。素材も鉄や銀、アルミなんかよりも軽く、そして丁度いい重さだった。最初のうちは中々慣れずものを掴んだりは出来ないが立ち上がることぐらいは出来るようになった。それにしても不思議なものだ......ただ繋げただけなのにこんなにも精密に動くなんて。そう思ってシルヴィアさんにどんな原理なのか聞いてみたが、どうやら専門の技師でないと分からないらしく、その日は義手に対しての興味を惹かれながら過ごしていた。そうして何とか一人でも歩けるようになった頃合いに零式改の様子を見に行こうと決心し、シルヴィアさんに連れて行ってもらおうと思い、話をしようと思い自分から話を切り出した。そしてその話をした次の日に見に行こうということになり、僕は初めて自分の住まわせてもらっている小屋の近くから離れ、見たことの無い景色を見回しながらもその現場へと向かった..........


















































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