第2話 転機










 しばらくの間、僕はさっき起こったことを頭の中で何度も繰り返し見ていた。いや、見ていたんじゃない。考えたくも無いのに、何度も何度も勝手に頭の中にイメージが見たままの通りに、鮮明に、浮かんでくる。思い出すだけでもあれは嫌なものだった、映画のスクリーンなんかじゃ見れないものさ。その無機質な機体のボディーに、世界のどんな塗料を使ったとしても出すことのできないような赤黒い、そして粘度のあるべたりとしたモノがまるで精神疾患の患者が洗いもしていないパサついた筆で殴り書きされるように塗りつけられた様だった。それはまるで人を殺した僕を責め立てるように―――――――




 「アキラ、入らせてもらうぞ。」




 ―――――――――と、僕が思想を張り巡らしているときに突然静寂をドアをノックする音で破られ、声をかけてきた。もしかして、ダミアン教官だろうか。そう考えているとそれはやはりドアをノックしたのはダミアン教官であった。




 「ダミアン教官............その、僕は




 そう言い切ろうとすると右頬に痛みを感じた。その後反応するのに時間がかかったけどぶたれたんだなと理解することが出来た。すると僕をぶった後教官は重い口を開き、僕に話始めた。




 「何故、お前はあの時機体の操作をせずに空にのろのろと漂い、隊の行動を乱すようなことをした。」




 「僕には、僕には........あんな事は出来ない。あんなの、ただ人を殺しているだけじゃないですか、CPUを倒すゲームとは違うんですよ...........!!」




 そう僕が言うと更に教官は僕の右頬をぶった。




 「ここは軍だ!!全体の行動を乱すことは規則違反であり、隊の作戦行動に支障を出すことに繋がる。もしかしたら先の戦闘でお前だけでなく隊全員が死んでいたかもしれない........!!お前はそれを分かっているのか!!」




 そんな事.....そんな事分かっているさ!!でも、本当に僕が言いたいことは......




 「では、教官は人を殺すという事を、同じ人間を殺すという事を........その人物の人生を奪うという事に抵抗はないんですか!!」




 「そんな私情で指令をもみ消すことは出来ない........!!我々も好きで戦っているのではない、仕事であるからだ...........!!」




 「なら、教官は仕事であるなら人殺しだとしても、その事の重大さに気づいているというのにやるんですか!!貴方は、前までの貴方は、死神や悪魔の様な人ではなかったはずだ!!」




 すると教官は今までで一番の平手打ちを食らわせてきた。そして教官は、教官は.....




 「やらなければこちらがやられてしまうのだぞ............!!なら、お前は相手に一方的に攻撃され、我々が滅びても構わんというのか!!」




 違うんだ......違う!!僕が言いたいのは、伝えたいのは、そんな事じゃなくて.........!!




 「何故なんだ.....何でだよ!!何故あなた達は戦う事でしか物事を決められないんだ!!そんなこと.....そんな事って........」




 「.......こんな事はしたくないが、お前には独房で頭を冷やしてもらう。今のお前は何をしでかすか分からないからな。それにわざわざお前をここまでにしたのも........!!」




 その言葉を最後に部屋の中に警備兵が入り込み、僕の両腕を二人がかりで押さえつけられ独房へと運ばれていった。




 「こんなのは間違ってる!!やめろ!!話をさせろ!!まだ、まだ話は終わってないんだ.........!!」




 すると、教官は憐れむ様な目をした後、気絶させろと警備兵に言い渡し、僕はまた暗闇に沈んでいった.........










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 あれからどれぐらいの時間が経っただろうか。最初のうちは独房の扉を殴ったり、蹴飛ばしたりして抵抗して見せたけどドアに電流を流されてからはやる事をやめた。だけども独房も悪いものでは無いと思うようになった。人の目も無く、動いているわけでもない。そして、戦いをしなくてもいいからだ。恐らく僕には今のまま教官の隊に戻って戦いを続けるなんてことは出来ない、だけどもこの組織に残らないとなると僕にはもう行くところはないだろう。一応この宇宙要塞には生活区域があるけどもそこはこの組織に勤めている者達に用意された場所だ。さすがに行く場所が無い僕でも追い出されるのは目に見えている。元々僕がこの組織に入ったのも記憶をほとんど無くし、行く場所が無かったけれど適合があったからこの組織の空軍課に所属していただけだ。だって、入りたくて入ったわけじゃないんだ、僕は教官みたいに仕事だからという理由で人殺しはしたくない。そうだ、前に過ごしやすそうな星を見つけたんだった。あの星なら人の手がある程度しか入っていない、監視の目も比較的ないはずだ。そこで穏便に暮らせればいいんだ..........だけどもこのまま戦いを見て見ぬふりすることもできない。もし、できるのなら戦わずにこの戦いを終わらせることが出来れば―――――――――――




 そのように物思いにふけっていると突如として厚い金属板が怪物の鳴き声の様な轟音をたてながら引き裂かれるような音が遠くから.........いや、かなり近い....?そう考えていると突然独房の壁が吹き飛ばされた。爆発に巻き込まれてしまったけども致命傷とまではいかなかったみたいだ、だけども少し右足を少しひねったみたいだ、患部がしびれるような痛みで震えるが何とか動けそうだ。そして壁伝いに何とか立ち上がると先ほどの爆破の原因が破れた鉄の壁の向こうにくたばっていた。どうやら訓練用の二足歩行型自走砲が突っ込んだみたいで辺りには衛生兵や教官が群がり負傷者などを運び出していた。恐らくまだ義務教育を終えたばかりの訓練生だろう、教官の指示を聞かないから..........いや、僕も言えたものでは無いか。でも、今ので廊下には出られるし見回りの警備兵は今の騒ぎでどこかに出払っているみたいだ。この独房もあまり使われない所だからな、誰も気にしてはいないんだろう。このまま出て行って、零式改に何とか乗れれば逃げれるか、なんて考えが頭の中をよぎった。だって、ダミアン教官は.......さっきの様子じゃ多分許してはくれないだろうし考えている通りにはなりそうにもない。でも、今なら時間制限のある選択肢がまだ残っている...........でも、ここでやらなきゃな。失敗したって別に独房にまた入っていればいい。やらないという選択肢はもう一度考えてみたが考えるたびにこっちの意見に傾いていく。ダミアン教官には色々な借りがあるけど、安定してからこっそりと会いに行けばいい。そうだ、そうすればいいんだ。そうすれば誰にも害はない、自分が被るだけでいいんだ..........そう思ってからは僕はもう既に動き始めていた、あの飛行機のある格納庫へと。








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 独房のある区域から格納庫のある区域へはとても快適に向かう事が出来た。どうやらそこまで事が知れているわけでは無いらしく組織の人物に遭遇しても走っていることを注意される以外はお咎めはなかったしそもそもさっきの騒ぎでほとんど人は出払っているようだった。これなら格納庫に行っても少しばかりの整備兵ぐらいしかいないだろう。そう考えていると格納庫の自動ドアにたどり着くことが出来た。パスワード認証でその金属扉を開けるとそこには整備兵の姿も無く、警備兵もいなかった。あるのは僕が乗った物と同じ形式の零式改だった。




 僕は機体に走り寄り、搭乗用はしごをのぼった後に計器類をぐるっと見回した後、ベルトを着用したことを確認してからエンジンに命を吹き込んだ。この機体は量産機とは違いスターターが付いていたから何とか一人でも動かせた、これが無ければ今回の計画は出来なかったし、やろうとも思わなかっただろう。そしてエンジンが温まり、速度が出せるようになってから勢いよく飛び立った。S.R.Fを起動した後、突入時の衝撃に耐えられるようにしてから一気に侵入禁止区域まで突き抜けた。何やら無線機からオートマチックに作動設定されている警告音声がけたたましく流れ出てきているが摘みを回して無線機を切った。そして独特の衝撃を耐えきった後、目的の星へと向かって飛び始めようとした。しかし組織に事が伝わったのか無線による警告ではなくショック砲による対空射撃が行われ始めた。宇宙区間へ放たれる独特の射撃が機体に一撃当たりそうになり、一瞬驚いたが腰を入れなおし操縦桿を握りなおした。あの対空砲についてはある程度の事なら知っているが避けきれるのか........?そう思っていると第二波が待ってくれることなく飛んできた。取り敢えず当たる距離になる前に動けばいい。まだ相手は僕のできる事の可能性を知らないんだ、第三波までは耐えきれるはずだ..............すると第二波が終わり相手は装弾の体勢に入ったようだ。しかし、次からは簡単にはいかないはずだ。こちらも何か反撃したいが零式改には後部兵器が搭載されていないんだ。ここは逃げ切ることで耐えるしかないな..............そして相手は装填が終わったのか第三波の攻撃を始めた。僕は回転や旋回行動を繰り返しながらあくまでも逃げの型を作り出し、相手の自動照準をなるべく欺けるようにして行動していた。するとどうだろうか、砲撃が止まり始め、しまいには完全に止まってしまった。何があったのだろうか、そう思っていると僕は自分が今置かれている状況に気が付いた。目視で確認できるぐらいのところまでに宇宙嵐が近づいてきて来ていたのだ。S.R.Fの逆噴射を試してみたが気づくのが遅かったようで完全に吸い込まれ始めていた。こうなっては、と腹をくくり宇宙嵐を抜けることにした。それがこの先の事に関わることだとは知らずに、僕は格納庫から飛び出たときのままの無鉄砲な気持ちのまま嵐の中へと進んでいった―――――――――


































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