澱み

「半分死んでたっていうのは・・・?」

「うーん、密度っていうか、なんとなく薄くすかすかになってね。まあ、一旦死んだんですよね。回復して密度が戻ったらこのサイズって訳で。もう存在としても人間の範疇ではなくて、妖怪みたいな感じですな。」

妖怪だったらわかる。

圭子は納得してしまった。妖怪なんて見たことはないけれど。いつのまにか娘が眠っていることに気づいた時の方に圭子は驚いた。

「祖父とおととい会ったっていうのは?」

「時々、会うんですよ。会うと言っても一般的な会い方じゃないけれど。喫茶店とか飲み屋で会うわけにはいかないですから。」

ここで沢井は咳き込んだ。

「すみませんが、お水を頂けますか?」

「どうぞ。抱っこから下ろすとまたこの子が泣くかもしれないから、そこのペットボトルの水どうぞ。」

沢井は礼を言って、500ml入りのペットボトルの蓋を開けて直接ぐびぐびと飲んだ。

「ペットボトルって便利ですよね。それで私達の会うって意識と意識がふっとすれ違ってコンタクト取るって感じなんです。私はこんななりですが、水も飲めるし生き物の範疇にはまだ入ってる。でもおじいさんは肉体は消えて今は意識だけの存在なんですよ。ゆくゆく太古の記憶の中に入っていく。生き物はみんなね。でも今はまだ入ってなくて、あなたの娘さんの心配してるんですよ。私は薄くなったあとこんななりになる時、そういう意識だけの存在と話せるようプログラムされ直しちゃったみたいなんですよねー。それで空間って見えてないけど、実はカーテンみたいなひだがあってするっと入ることも出来るし隠れることも出来るって訳で。

圭子は考えようとした。でも難しかった。頭は水分たっぷりのスポンジのようだった。澱みだっけ。

「澱みがあると苦しいってどうしてわかるの?もしかして祖父も苦しんだの?」

「ん、苦しかったようです。」

「どんなふうに?。」

「まず感覚が鋭敏になる。新奇なもの、苦手です。慣れないんですわ。」

沢井は続ける。さっきまでの軽々とした調子はなく一言一言確かめるように話す。

「大きな音とか耳障りな声も。人間の耳って必要なものに集中して他はぼかすようになっているけど、全部拾っちゃう。取捨選択が出来ない。心の中に常に衝動を飼っている。だからお嬢さんも苦しがってる。」

長泣きの説明はつくわね。圭子は思う。何のトリックなのかしら?。


「吸い出すのはどうやってやるの」

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夜の生きもの 鷲見恵 @akkari0902

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