第四話 第二次天岩戸事変

第1話


 質問:天岩戸に引きこもるってどうなのよ?

 回答:それについては、ただ否定するしかないとしか言い様がない。


 オオヤシマに居るアマテラスは、正社員としてオオヤシマに働いている。

 しかしながら、アマテラスがする仕事は殆どなく、実質『ニート』状態である。

 ニート状態であるとはいえ、彼女がへそを曲げると困る大きな問題がある。

 それが、天岩戸への『引きこもり』である。

 太陽神――太陽の化身であるアマテラスは、その状態に応じて天気が大きく変化する。

 例えば、外出していれば天気は晴れ模様になり。

 例えば、部屋に引きこもっていれば曇り空になり。

 彼女が怒り狂う時はとんでもない暑さになり――。

 その天気はいつだって変わってしまうものだ。彼女の気分次第で変わってしまう天気というのも、少々困りものだと思う。

 では、実際に『そうなってしまった』としたら?



 ――どうなってしまうのだろうか。



   ※



「アマテラスが部屋から出てこない?」


 オオヤシマ。

 いつものようにスサノオとヤタガラスは呼び出されて、イザナギの元にやって来ていた。

 イザナギ曰く。


「……いつもの時間になっても外に出てきやしない。ご飯を食べなくても何とかなる存在だから猶更困っている。しかも最近はインターネット? に凝っていてな。猶更、外に出たがらないという訳だ。……はあ、まったく、どうしてああなってしまったのやら。教育を間違えてしまったのかねえ……」


 知らない人のために一応説明しておくと、イザナギとアマテラスの関係は、親子である。その辺り説明すると色々と大変なので省略することになるのだが――!!


「タケミカヅチ一派のことも解決しちゃいねえって言うのに。オオヤシマは問題山積みなんだよ。どうにかならねえのか? 親父殿」

「そんなこと言われても私にも困る。私だって全てを管理出来ている訳ではない。リーダーではあるが、管理職か? と言われると曖昧な解釈しかすることが出来ないのだよ。……それはそれとして、だ。何とかしてアマテラスを外に出してはくれないだろうか?」

「いやいやいや。だから言っただろ? アマテラスと親父殿は親子なんだから、何とかそこの間で解決出来ないのか、と」

「それが出来ていたら苦労しないよ。……それに私は仕事が山積みだ。何とかしてくれ」

「何とかしろ、って言ったってな……。過去の引きこもりは俺が悪かったし、引きこもり癖をつけたのは俺のせいだって言われたらそこまでなんだよな……」

「……あの、オモイカネさんの見解は?」


 オモイカネ。

 知恵の神として有名な彼は、このオオヤシマで技術大臣として働いている。

 そんなオモイカネは過去の『引きこもり』に際して有用な意見を述べたことでも知られている。というよりかは、寧ろその時のことが評価されてそういう職に就いていると言っても良いだろう。

 そんなオモイカネはどんな言葉を放ったのだろうか?


「……それがだね」


 イザナギは机の上に置かれた少し大きめの立方体の箱を二つ取り出した。


「? それはいったい何だ?」

「ヘッドマウントディスプレイ」


 イザナギは端的に述べて、


「要するにこれでゲームの世界に没頭出来る仕組みらしいんだよね。どういうゲームを遊んでいるのかは知らないけれど、これを装着することで視界にゲームの世界が広がるらしい。……僕達神には無用の長物だと思っていたけれど、まさかこんなものを下界から仕入れてくる羽目になるとは思いもしなかったよ……。しかもこれ、それなりにするしね」

「それで?」

「それで、とは?」

「それで俺達はどうすりゃ良いんだ? ……まさか、そのヘッドマウントディスプレイとやらを使って、ゲームの世界に引きこもったアマテラスを連れ戻しに行け、なんて言い出さないだろうな……」

「そうだが?」

「嫌だよ絶対に嫌だ! 俺だってゲームに詳しい訳じゃないんだ。そういう奴がゲームの中に向かったら違和感バリバリな気がするし!!」

「安心しろ、今回はゲームに詳しい専門家を連れて行って貰うつもりだ」

「ゲームに詳しい専門家、って居るのかよ……? この神界に」

「私だが?」


 そう言ってやって来たのは、ひょろっとした体格の眼鏡をかけた男だった。


「げっ、オモイカネ」

「げっ、とは何かね。げっ、とは。私はただ端的に物事を述べただけに過ぎないのに、どうしてこんな目に遭わなくてはならないのかね?」

「……オモイカネはゲームに詳しいのか?」

「人間に比べればその知識は浅い。しかし、神の中ではその知識は多い方だと言えるだろうね?」

「……そりゃそうでしょうよ。何せあんたは知識の神様だ。それぐらい知っていて常識と言えるレベルのね」

「こりゃ手痛い言葉だねえ……。胸にしまっておくよ」

「……という訳で、だ」


 イザナギが咳払いをして、三柱(正確に言えば、二柱とその仲間という扱い)は向き直る。


「一応言っておくが、今回も『極秘』で頼む。もし、アマテラスが引きこもりなんてことが世間に知られてみろ! それはそれで面倒なことになりかねないし、場合によっては本人の引きこもりが継続する場合だって考えられる! 良いな、だから、絶対に知られてはならないのだ!」

「極秘って……」

「ま、いつも通りのことだね。オオヤシマはこういうのばかりだから。それぐらい君にだって分かっていることじゃないのかい?」


 オモイカネは言う。

 しかしながら、スサノオは分かっていた。

 アマテラスがどれくらい面倒な神であるのか、ということについて。

 しかしながら、分からないこともあった。

 アマテラスの引きこもりぶりがどれくらい大変なのか、ということについて。


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スサノオの旅 巫夏希 @natsuki_miko

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