夜が明ける前に…

葵流星

あと数時間で夜が明ける。


わたしは、ただ部屋ベッドの上に居た。

まぶたを開けているのか開けていないのか、時折部屋の照明が視界の中に映る。


そんなほんのりと飲み込まれるような闇の中を起きているのか寝ているのかわからないくらい頭のぼーっとしたわたしは無感情に転がっていた。


また、今日も西から陽が昇ると奴らは活動を始める。

世界に不幸をばら撒く。

そのために、奴らは生きている。


そして、その奴らの正体が自分だった時…。

わたしはただ絶望した。


けれど、今はそうでもなかった。

わたしが奴らなら奴らにわたしが不幸を負わせてしまえば良かった。

そして、それは見事に成功したのだった。

だが、何も変わらなかった。


寄生虫(パラサイト)のように引っ付いた奴らからの暗示が消えることはない。


なぜ、代替えが可能なのにわたしを彼らは必要とするのか…。


わたしは、夜が好きになった。

わたしの夜は短い。

なんでこんなにも短いのだろうか?

誰の声も、何の音も聞こえない。


それがいつの間にか幸せになっていた。


誰にも邪魔されない…。

そんなやすらぎがこの場所だった。


…わたしは壊れてしまったのだろうか?


それとも、正常なのだろうか?


少なくとも、都会(町)に出る前は幸せだった。

なぜ、こんな薄汚れた町が綺麗に見えたのかわからない。


…奴らとわたしは何だったのだろう?


都会という生物に引っ付き金という血液を得るヒルだったのだろうか?


今となっては、それはもうどうでも良い。


わたしの夢というのは社会に打ち砕かれた。

その夢も社会に作られたものだった。


社会人という幻想に早く気付くべきだった。

それこそが、社会が作り出した尖兵であり、わたしにとっての敵だった。


このまま、夜が続いてくれればいいのに…。


奴らとわたしにとっての最後のやすらぎだというのに…。


しかし、奴らは共同体だった。

自分で数を増やし、不幸を増やすことで生き続ける。

だから、奴らの一部を壊したところで問題はないはずだった。

けれど、奴らは恐ろしいほどにそれを嫌う。


例え血が流れたとしても。

それが、自分達の『体』でなければ目を向けることはない。


わたしは、解放しただけだ。

あのまま、生きて奴らの一部に取り込まれてしまう魂を…。


彼らは、幸せになれた。

あんな顔をしたのに、今は笑ってくれているだろう。

もう私に助けてほしいって遠まわしに愚痴を言わなくて良くなったんだし。

大切な人にもまた会えたんだ。

なんて、幸せなんだろう…。

もう心配はない。


あなたは苦しまなくていい。


あなたが恨むべきなのはあなたの両親、そして人生の先輩方。


是非とも感謝してほしい。


わたしは、幸せな夢を見た。

綺麗な草原の上で白いワンピースを来て笑う。

わたしは、感謝されているのだ。

そう思った。


夜はなんて幸せな時間なんだろう。


日が昇っている間は地獄なのに…。


働かなければならない…。


「もっと、人を解放しなくちゃ…。」


わたしは、そう思いながら朝を迎える。


けれど、わたしも終わりが欲しい。

自由への扉は果てしなく遠い。


夜という近道を通ればすればすぐなのに…。

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夜が明ける前に… 葵流星 @AoiRyusei

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