第4話 小さな竜
・・・スリスリゴシゴシ・・・・・
二十日ほどが経った。未だ少女の足は止まらず、日々俺を抱きながら道なき道を歩んでいた。
・・・ゴシゴシスリスリ・・・・・
この二十日の間で、既に俺の、少女に対する敵愾心はなくなっていた。
これだけ寝食を共にすれば・・・・と言いたいところだが、今の身体は意思と本能の比率が動物寄りなので、刷り込みの線も否めない。
・・・ゴシスリゴシゴシ・・・・・
変化したのは感情だけではない。俺の身体もまたこの数日で変化しつつあった。
何より変化したのは『翼』だ。
俺は『飛行』を成功させ、自由自在に飛べるようになっていた。最近では停止飛行ホバリングを練習している。
・・・スリスリゴシスリ・・・・・
翼もそうだが、身体全体が成長したように感じる。尾も今まで視界の端っこにちらっと映る程度だったが、今は蜷局とぐろを巻ける程度には大きくなった。すでに異物感のような違和感も薄れ、ちゃんと体の一部として動かせている。
・・・ゴシスリゴシ
「キュッキュッ、キュ!!」(いい加減、撫でるのをやめろ!!)
「・・・・?」
少女は小首を傾げた。・・・いくら抗議しても、少女は分かってくれない。
この二十日間、彼女は俺が逃げられないのをいいことに、歩こうが止まろうがずっと俺の身体を撫でてくる。
・・・・それも、鱗が剥がれるんじゃないかというほど、ずっと。
「・・・・・。」
・・・・ナデナデナデ・・・・
「ギュ、・・・・ギュゥ・・。」
分かってくれる日は来ない。・・・・そんな気がした。
ーーーま、まあこの数日間で、彼女の生態も大体は把握できた。
早朝、やっと少し辺りが明るくなり始める頃に目を覚ます少女。鍛錬なのか、毎朝瞬間移動レベルの速度で動きながら高速で棍棒を振り回している。
俺も、さすがにこの光景を初めてみたときは血の気が引いた。
一汗かくと、近場の川などで身体を清め、ついでに果実なども回収しバッグに詰め、早々に野営地を発つ。
・・・因みに、まだまだ早い時間なので大抵俺は寝ていて、いつの間にか、少女の腕の中か頭の上に乗せられて出発するのだ。
それから日が暮れるまでは、果物をかじりながら休まずひたすら歩き続ける。稀に歩みを止めることもあるが、大体は果実採取だったり、魔物との戦闘だったりがほとんど。彼女の体力は無尽蔵らしい。
日が暮れ夜になると、慣れた手つきで焚き火を組み、俺を膝の上に乗せ手頃な木に寄り掛かる。
そしてそのまま、浅い眠りにつく。気配を察知したり俺が抜け出そうとするとすぐに起きてしまうので、おそらく彼女は寝ながらに周囲の警戒をしているのだと思う。
・・・・彼女はどこか一人に慣れているようにも感じられた。日に数度しか喋らないし、表情もほとんど変わらない。睡眠中も辺りを警戒していることからも、恐らく数年は人と生活していないのだろう。
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・・・今もまた、少女と共に草原を進んでいる。
最近は飛行に慣れるためにも、よく少女の横で飛んでいる俺。少女から離れないようにペースを合わせるのも慣れたものだ。
「~―~―~」
少女が喋った。少なくとも日本語や英語ではないので何を言っているのかは分からないが、この数日で特定のフレーズやごく僅かな表情の変化で、何を言っているのか大雑把な内容は把握することができるようになっていた。
前世の俺は物覚えが良い方ではなかったような気がするので、この学習能力の高さも多分この身体のおかげだろう。
(これは・・・「休む?」、かな?)
キュゥと鳴いて賛成した。小竜ドラゴンの身体もまた疲れ知らずではあるが、一日二・三回の休憩が必要だ。時間的にもお昼頃なので、休むには丁度いい時間だった。
二人は少し歩いたところで、広大な草原に一本だけで佇む大きな木に辿り着いた。
大きくため息を吐いて木のそばに腰かける少女。彼女は左手でバッグを漁りながら、相変わらずの無愛想な顔で、俺を膝の上に招く。
俺が膝の上に着地したのと同時にバッグから取り出されたのは、道中で採取していた果実。少女は片手に持ったそれをかじりつつ、もう片手の果実を俺に差し出した。
それを受け取った俺は、不意に上を見上げた。あったのは、やっぱり無愛想な少女の顔。彼女も、見られていることに気付いたのかこちらを向いた。
今まであまり気にしていなかったが、少女の顔は病的なほどに白く、それでいて綺麗だ。
ライトブルーの大きな瞳に、白く輝く長い髪。カラーコンタクトや染め髪ではできないその自然な色は、木漏れ日に照らされ爛々としていた。
そう考えて見てみるとかなり可愛い少女・・・ではあるのだが、如何せん今の俺は、あまり異性としてキュンとするようなことはない。
まあ、今の俺は男女以前に人間ですらないので、価値観にズレが生じているだけなのかもしれないが・・・。
しばらくじっと見つめ合っていると、不意に少女が俺の喉を撫ではじめた。
・・・・前世の犬や猫などが好むそれだが、俺も例外ではなく、無意識に鳴いてしまう程度には気持ちがよかった。羞恥心はない。
段々と瞼まぶたが重くなっていく、食事の後にこんな気分が良くなればそれも当然かもしれない。
薄れゆく意識の中、視界に映った少女の顔はやっぱり無愛想だったが、どこか悲しそうにも感じられた。
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