日記その4・『他愛ない僕ら、甘辛く。』(執筆者:先輩)

 後輩と付き合ってから何度目になるか分からない喧嘩をした。三月だというのにまだまだ冬日で炬燵が手放せない日の一幕だ。口喧嘩なんてお互い余裕がないときに些細な理由で生じるものだ。喉元過ぎれば熱さを忘れる。暑さを忘れて、心が冷える。冷えたとき、君がいないと心細くなって、居ても立っても居られなくなって部屋を放り出す。走る、走る、息切れして両手を膝について前屈みになって、それでも走る。君は喧嘩した後いつも決まって街を見下ろせるあのスポットに足を運ぶ。僕が不格好な告白をした場所に二人で集って冷静になって、謝って、誤ったほつれを繕う。赤い糸を入念に継ぎなおす。街で一番高い建物の屋上に鉄格子を掴む彼女の姿があった。僕はひたすら非常用の螺旋階段を上って君に会いに行くんだ。いつも先に折れるのは僕の方だった。音を立てず、彼女の横に立つ。上空で空転する冷気に溶けないように揺るがない言葉だけを、短く告げる。炬燵の占有権で争っただけ――しょうもない開戦理由を回顧して、二人でけらけら笑ってすっきりする。慌てて飛び出してきたので防寒具は一切持ち合わせていなかった。しょうがないですね、と呆れたような、でもちょっと嬉しそうにはにかんで僕らは後輩のマフラーを二人でぐるぐる巻いた。蜂蜜色の雲がぼたり、と宙に垂れる。悪くはないな。僕は無言で彼女の肩を抱き寄せた。

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