日記その2・『夕景、境内に黄金重なる』(執筆者:先輩)
うちの近くの高台に構える神社、その境内は、隠れた避暑地として僕らの間ではちょっとした人気スポットとなっていた。人気はないけど、一部では人気はある。そんな他愛ない同音異字ならぬ異音同字が似合う。無人の賽銭箱を挟んで後輩と僕は、石段に腰を下ろした。後輩は手持ちのポシェットからチューブ状の入れ物を取り出した。「日焼け止め?」「ただのハンドクリームですよ」「肌、乾燥しないだろ。冬じゃあるまいし」「夏でも乾燥するものはするんですぅー」
日は傾き、空を覆う夕暮れの色が濃くなっていく。吹き付ける風は涼しい。日が暮れるよりも前に部屋に戻ろう、と思った。あの八畳未満の日常へ。
「お賽銭していきません? 神様だってタダで居座られちゃ立つ瀬がないと思うんです」「なんか押しつけがましいな。ただでさえ避暑地として愛用してるのに」「でも神様って願いを受け止めるのが本職です」「こじつけだ」
財布を見ずに小銭一枚、箱へと投擲。ドーナツの穴と黄金がくるくる二枚宙を踊る。
「五円玉、ですね? ……最近ご縁が足りてないとか?」「鉄分足りてないみたいに言うな。たまたまだよたまたま。それに君も五円玉を投げたじゃないか」「ご縁は足りてますよ?」「じゃあ、その心は?」「二枚の五円で重ね重ねご縁がありますように、と」「強欲だ」「わがままの方がいいです、可愛げですし」
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