第24話 読書・天ぷら・相対論(おまけ)

 ☀☀☀


 薄暗い部屋の中、青い光が明滅している。

 スマートフォンの画面から漏れ出した光だ。

 ベッドの枕元の置かれたそれは、手を伸ばせばすぐにでも届くだろう。

 しかし、うららがそうすることはなかった。

 無気力な両手が掴むのはいつだって、弱くてちっぽけな自分の肩だけだ。


 電話の相手は、見なくても分かっている。

 自分が今まで見てこようとしなかった人だ。


「メッセージが残っています」


 オペレーターの女声が部屋中に反響する。

 機械的なそれに意図など介在していないはずなのに、まるで語り掛けられたような感覚だった。


「残ってないでしょ……もう、話すことなんて」


 無意識にこぼれた独り言は、自衛のためか自嘲のためか。

 それすらも、自分にはもう分からない。


 過去から逃げるよう布団にくるまる。

 目が覚めたら、着信履歴と一緒に記憶も消えていればいいのに。


 もっと知りたいんだ。氷彗のこと——


 先日自分の語った言葉が、脳裏をよぎった。

 もし、氷彗から同じことを言われたら、それに返すことができるだろうか。


 しばし考えて、「無理だろうなぁ」とうららは結論付ける。


「だって、軽蔑されたら……嫌じゃん」


 バイブレーションが収まったところで、スマートフォンをようやく掴む。

 母親からの不在着信を全部消すと、うららはまどろみに身を任せて、瞳を固く閉じた。

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