第16話 南極・ペンギン・かき氷(後編)

 ❄❄❄


「——君、鳥見川君」

「っ!? は、はい!?」


 自分の名前が呼ばれていることに気付き、現実に引き戻される。


 気付けば、院生室の自分のデスクに、飯塚が来ていた。彼女は心配そうにこちらを覗き込んでいる。


「大丈夫かい? ボーっとしていたけれど」

「す、すみません。昨日、あまりよく寝られなくて」

「やれやれ……がっつり夜型の生活をしてるからだよ」


 ばつが悪くなって、氷彗はうつむいた。


 うららに頭を撫でまわされた結果、目がさえて全然眠れなかったというのが寝不足の真相であるのだが、そんなことは口が裂けても言えない。


「まぁいい。ところで、昨日は塔山君、どうだった?」


 なぜ、うららのことを尋ねてくるのだろうか。

 よく状況は分からなかったが、とりあえず氷彗は昨日のお礼を言った。


「うららさん、ですか? はい、大喜びでした。ありがとうございます」


「それはよかった。彼女、研究室に入ってからずっと、理学研究科うちの研究留学プログラムに応募していたからね。色々あったけど、昨日の会議でやっと通すことができて、田宮さんもほっとしていたよ。やっぱり、この前パブリッシュされた論文が決め手だったかな」


「え……?」


 留学——

 初めて聞くその話に、氷彗は視界が真っ暗になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る