第5話:ソコ村救出

「こいつは圧巻だな」

「魔物っていっても、動物じゃないこともあるのか」

「これは、ちょっと気持ち悪いかも」


 普通こういのって、定番でいったらゴブリンとかさ……狼や魔族だったりするよね? 

 熊とかって群れるイメージないし。

 まあ、最悪色んな魔物が徒党を組んで襲ってるかと思った。

 けど、実際は違った。

 眼前に広がるのは、ジャンボスネイルと呼ばれる巨大なナメクジの群れが村に押し寄せる光景。

 ナメクジだから、村に閉じこもって押しとどめることが出来たのか。

 村をぐるっと囲った柵を乗り越える速度も遅いし。

 しかしまあ、厄介な魔物であることには変わりない。

 でかいうえにぬめりがあって、しかも弾力もある。

 そのうえ再生能力も高い。

 簡単にいうと、刃物を通しにくい性質をもっている。

 対するジャンボスネイルの攻撃手段は溶解液だが、これも効果が微妙。

 溶かす速度が、遅いのだ。

 とはいえ、捕まってのしかかられたらなかなか脱出できない。

 加えて生理的嫌悪感も半端ない。


 柵を上るジャンボスネイルを松明で焼きながら追い払っている村人の表情にも、疲れが色濃く出ている。

 相当な耐久戦を強いられていることが見て取れる。


「まあ、有効的な手段は火の魔法か……大量の熱湯を浴びせかけることでしょうか」

「塩とかどうなの?」

「塩を使うなんて、もったいない」


 塩を使って退治する方法は、満場一致で否定された。

 まあ、この巨大なナメクジを退治するにはどれだけの塩が必要なのか。

 

「こいつらの厄介なところは、寄生型の虫の魔物を内包しているところも大きいからな」

「できれば、直接戦闘は避けたいところだ」


 俺の塩発言はスルーされ、グレーズとジャーが腕を組んで考えている。

 ちなみに俺たちはいまナメクジを挟んで村とは反対側から、状況を確認している。

 大量の熱湯を用意するのも困難な状況であるし。

 日本に帰ってナメクジ用の殺虫剤を買ってきてもいいが、これだけでかいとどれだけいるかも分からない。

 ぱっと見ただけでも、50cm~1mのナメクジが100匹以上いる。

 すでに気持ち悪い。

 マリアの顔色も酷いことになっている。


「よっしゃ、ここは俺の出番か?」

「話聞いてました? 寄生虫がいるから近接戦闘は避けるべきって相談したばかりですよね?」

 

 ユリアンが拳を鳴らしながら前に出たのを、ベイズリーさんがため息を吐いて押しとどめる。

 本当にこの皇子様大丈夫か?


***

 結局、油を撒いて火の魔法で全部焼き殺した。

 なんか色々と酷い状況になっているが、誰も何も言わない。

 油ももったいないと言われたが、俺が用意したのだから別にいいよね?


 黒く干からびて焦げた状態でも10cm以上あるナメクジ達の死骸をどうするかで、村人たちと相談。

 寄生虫も死んでいるだろうということで、一ヶ所に集めて埋めることになったが。

 そもそもなぜ、ナメクジがこんなに大量発生したのか?

 いや、もしかしたら発生したわけではなく、何かに追われてここに押し寄せてきたのか?


 ナメクジの天敵か……鳥とかかな?

 でもそうだったらそうで、鳥がこの村を襲ってるんじゃ。

 原因が分からないまま、とりあえず村の中へ。


「皆様のおかげで、どうにか村の危機を脱することが出来ました」

「それは良かったですが、どうしてこんなことになったか心当たりはありますか?」


 グレーズさんが丁寧な言葉で村の代表の男性に声を掛けている。

 相手も熊の獣人のようだ。

 この村の、村長さんだと言っていた。


「いえ、私共のほうではとんと分かりませぬ」

「そうですか」


 村長さんも心当たりはないらしい。

 他の村人にも聞き込み調査をしたが、特に収穫は見られない。

 このまま戻っても良いのだが。


「これで、依頼は達成だろ? 戻って報告しようぜ?」

「まあ、そうなんだけど……これで終わりかな? なんか釈然としないというか、このあとにもっと恐ろしいことが起きそうな」


 ユリアンは満足したのか、とっととジャマーの街に戻ろうと言っているが。

 ジャーもメーアさんも帰りたそうにしている。

 マリアは……青い顔のままだな。

 無口だし、ちょうどいい。


「村の外をもう少しだけ調べてみようと思う」

「もう、何もないと思うけどな」

「早く帰ろうよ」


 俺の提案に対して、ユリアンはどうでもよさそうな返事だ。

 飽きっぽい性格なのかもしれない。

 マリアが久しぶりに喋ったと思ったら、帰りたいと言っていた。

 別に、勝手に帰ってもらっても良いけどさ。


 そんなに広範囲を見て回れるわけでもないし、何より時間が遅いので一泊して戻ろうという結論に。

 森にはナメクジが這ったあとが多くみられたが、確かに他の生物の気配はあまりない。

 むしろ、大量の巨大なナメクジをみて、この周りから離れたのかもしれない。

 そんな安易な結論に至ったが、すぐにそれは覆されることになった。

 

 村に一軒しかない民宿のような宿で夜をあかしていたら、けたたましい鐘の音がなる。

 何かが起こったらしい。

 若い男の声が聞こえてくる。


「レッドラインボアの群れが近付いている! すぐに住人は村の真ん中に避難しろ!」


 レッドラインボア?


「うわっ……こいつらに追われてたのか」

「てか、まずくないか」

「やだ、お姉さん蛇って苦手なのよね」


 その声を聞いたグレーズさんたち3人は訳知り顔。

 うん、レッドラインボアが何か分からないけど、蛇ってことだけは分かった。


「ほう、面白くなってきた」

「殿下、面白くないですよ! 早くお逃げください!」


 その報告に舌なめずりしているユリアンに、ベイズリーさんが慌ててたしなめる。

 そして、マリアの顔が真っ白だ。


「私……ナメクジと同じくらい蛇が苦手なの」


 どうやら、長い夜が始まりそうだ。

 

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異世界サラリーマン成宮 ウマロ @stimulant

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