頁の余白:祭りのあとの物語たち

「あ、なんだか、ここからはふんいきが違う」

 がらんどうだった図書の塔に微かだが、人の息吹が漂っている。眼をこらせば、何処かに人影が視えそうで、私は思わず立ちどまった。

「よく御気づきになられましたね。そうです、ここからは読者に愛され、読まれた物語たちが祭りを終えて、最後に眠る場所です」

 案内役の娘がふわりと微笑みながら誘ってくれた。

「祭り? いったい、なんの祭りなんだ」

 娘は語らず、ただ、穏やかに睫をふせた。とても嬉しそうに。

 頁をめくるように風が吹き寄せてくる。

 むこうのほうから、微かに人の声が聴こえた。読者たちの声だ。


 さて、私も読みにいこうかな。

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