第五の頁:《□□》は繰りかえ□□□
「……あれ」
私は昔に読んだ頁をもういちど訪ねようとして思わず首を傾げた。あの頁は確かにこの場所に飾られていたはずなのに、森のこもれびのなかにはからっぽの画架があるだけで読みかえすことができなくなっていた。
「なにかお捜しですか。読者さま」
後ろから声を掛けられて振りかえると、娘がたたずんでいた。案内をしてくれた娘だ。旧い言葉を模った刺繍のすそをつまんで、彼女は頭をさげる。ここにあったはずの物語が何処にいったのかと訊ねると彼女は奇麗な眉の端をもちあげた。
「ざんねんながら落丁してしまったようです」
そんなことがあるのか。
「ここに収書されているのはすべて小説になれなかった物語です。されども確かに物語るべくして産まれたもの――そこから喪われたということはすなわち、著者たる誰かのこころに触れて筋書を補完され、何処かで小説となることができたのかもしれませんね」
風が吹き渡る。娘の髪がさらさらと笹の葉のように流れた。
「読者さまはどうぞ、他の頁をお読みください」
何処からか秋のにおいがした。ああ、読書の、季節だ。
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