Chapter 05:この国の理
第46話:ヒナとルナの絆
「ヒナ、どうしてここに――私は、あれ?」
「この世界にルナが来ていて、帰れなくなってるって聞いたの。だから迎えに来たの」
「この世界……」
ルナはぼんやりと、深い眠りから覚めたばかり、というような顔をしていた。
見たところでは怪我や調子の悪そうなところもなかったので、ゆっくり回り始めたらしい彼女の思考が巡るのを待つ。
「あっ」
「どうしたの? なにか思い出した?」
小さな妖精のようなダイアナの姿であった時、ルナとしての意識があったようには見えなかった。
この国に居る多くの人形たちは、どこかから連れてこられた人間だ。その人たちは女王の配下として、意のままに操られている。それと同じように、記憶や意識は飛ばされていたのだろう。
「ヒナ、来てくれたんだね! ここはね、ドロシーが創った世界なの。手伝って!」
「手伝ってって……ぷっ!」
あははははと、声を上げて笑ってしまう。
そんな私を、ルナは「笑ってる場合じゃないよ」とむくれて、ネズミたちはなにごとかと驚いて見る。
だってルナときたら、そんな説明でなにを手伝えというのか、伝わると思っているのだろうか。
彼女はいつもいつも、楽しそうなことを見つけては私を連れ回す。わけも分からずに引きずり回される、私の身にもなってほしいものだ。
「いいよ。言われなくてもそのつもり」
「そうなの? さすがはヒナだね!」
「でも――」
これだけは情報共有しておかなくては。
一緒に来たポーとははぐれてしまって、居場所はネズミたちが把握してくれているものの、女王の配下たちに囲まれてしまっている。
私たちが今居るこの厨房だって、たまたま誰も居なかっただけで、ポーと状況はあまり変わらない。
「そっか。ありがとう、ヒナ」
「えぇ……? だって私、ポーを守れてないんだよ? その上自分もこんな姿だし」
「おサルさんのヒナも可愛いよ? それに、どんなことをしたってポーを取り返しに行こうとしてた。違う?」
「違わないけど――」
サルのぬいぐるみが、水鉄砲を構えて。なんの冗談かと思うほうが、普通ではないだろうか。
ルナは気持ちが先行してしまって、必要な言葉や行動が抜け落ちてしまうことがよくある。
でもそれは、必ず私にだけなのだ。他の人たちにそうなった姿は、見たことがない。
それはルナが、私を信頼してくれている証だと思う。だから私も、ルナを信頼している。
これを誰かに言ったとしたら、根拠が希薄だと言われるかもしれない。けれど今なら、強力な証拠がある。
だってルナは、サルのぬいぐるみになった私を、ひと目で私と見抜いたのだ。
「私もなにか持ってたほうがいいかな」
「これ使う?」
「ううん、それはヒナが使えばいいよ」
差し出した水鉄砲を受け取らずに、ルナは食材の置かれた棚を探す。彼女も私と同じで、包丁みたいな直接的な道具を使う気にはならないらしい。
「これでいいや。さ、行こう」
「そんな物でいいの?」
「うん、強力な武器になると思うよ」
ルナが手に取ったのは、強力粉の袋だ。四キロくらいの大きな物で、使えると言うならたっぷり使えるけれど。
どう使うんだろう?
「そうだ、このネズミたちはね」
「ん、ヒナのお友だちでしょ? 歩きながら、名前を教えてよ」
重そうな強力粉の袋を、ぽんぽんとお手玉のように放りながら、ルナは歩いていく。
余計な説明など必要としない。頼もしいその背中に、「どこへ行くのか分かってるの?」と問いかける。
「そうだよ。早く案内してくれないと、私が迷子になっちゃうよ」
いかにも冗談ぽく、軽口を言うルナ。
私はそれを、お気楽だとは思わない。彼女がそうやって、早く行こうとする理由は分かりきっているから。
「大丈夫。ポーは大丈夫だから、落ち着いて行こう」
「うん……頼むね」
悪いね、と彼女は言わない。私がそんなことを言うのも、ルナは嫌う。持ちつ持たれつ、平等だから――ではない。対等だからだそうだ。
私はルナと並んで、ポーの隠れているという方向へと慎重に向かった。
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