無機質な出会い(4)



傘子とまともに話してから2日後、ジャンガリアンシャドーの定休日。

俺は一昨日返し忘れた傘を持ち、傘子と共に森深い神社の鳥居の前に居る。

来てしまった、可愛さに釣られて。神社なんてどうでもいい、傘子とデート出来るならそれでいい。音楽はどうしたって?縁なんかもうとっくの昔に繋がってる、ギターの弦でな。つまり6倍だ。

そんな事を考えている間に本殿に着いた。

想定外の雰囲気に空気が張り詰める。デートだ!と浮いた足は地についているのを感じざるを得ない。無言のまま隣にいる傘子は参拝する。それに続き慌てて参拝を済ませる。

雰囲気に飲まれて言葉が見つからず無言のまま、外にある休憩所に腰を下ろした。

傘子はカバンから水筒を取り出して湯気の立つコーヒーを俺に差し出す。

傘子の目を見て受け取り、コーヒーに口を付ける。前回よりも少し飲める代物になっていた。そういえばと思い、返し忘れていた傘を返す。傘子は傘を受け取りテープをなぞる。

ようやっと一息ついた心地がした。


ごちそうさま。水筒の蓋兼カップの部分を返す。「私も」コーヒーを注ぐ傘子、その姿を横目にタバコに火をつける。

見上げた空模様は荒れ始めている。

今さっきまでのニッコリ笑顔の空は顔色を変え、泣きじゃくる赤子の様に喚いた。

傘子は慌てて傘をさす。プッシュでワンタッチ式の傘が開く。

あっつい。カラカラと地面を転がるカップ、何が起こった。

「ゴメン傘に引っかかって飛んで行っちゃった火傷してない?」左上半身はコーヒーに染まっているようで、頭から左側を中心にタオルで拭われる。

偽りの初デートは結果的に距離を縮める最高のきっかけになった訳だ……



ピシャーンゴゴゴ……


なんか急に天気が崩れ出したな、さっきまでそんな感じしなかったのに。

「あご髭の妄想に付き合ってる間に片付け大体終わったし、本格的に来る前にかーえろ」俺と西野は話半分に聴きながら黙々と片付けを続けていた。それも終わりも見始めている。

俺も帰るかな。

麟ちゃんはどこに帰るんだ?

「おいまだ話の途中!ここからが本番なんだって」

「でも雨降りそうだし、傘持ってないし、結局音楽じゃなくて女との将来願ったのもわかったしコーヒー豆と縁できたとかだろどうせ」ほぼ確信をつく金髪。

「私は傘なくても帰れますけど、帰る場所ありません」「じゃあウチくる?」麟ちゃんの触れ辛いボケに西野が返す。

「そうだけどそうじゃねぇんだ!俺は俺たちはタブーを……」


バターン

中々の勢いで入り口のドアが開いた。

見慣れない女の人が立っていた。


「雫……」ゲンブさんは固まったままコーヒー豆を握りしめた。

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月におはよう @mama10

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