無機質な出会い(3)
なんで店に用事あるってわかったんですか。コーヒーの準備をしている傘子に投げかけた。
「中から見えてたよー誰かは分からなかったけど店の前うろちょろしてるの、お客さんだって思うでしょ。そしたら路上ミュージシャンで驚いたよ」確かにうろちょろはしていたが30秒もないくらいだったはずだ。そんなに不審だったか、俺とした事が。
「それでー傘の恩返しに歌でも歌ってくれちゃうのかな、私の為に」
歌います。あなたの為に歌います。
「お店の中では勘弁して」ギターを取りに行こうとする俺にケラケラと笑いながら釘を刺す。「あーおかし」席に着き直した俺を見て笑っていた。
「灰皿いる?」銀色の灰皿を小さく掲げてヒラヒラさせている。俺はゆっくり大きく頷いた。
煙草を取り出し火を付ける。漂う煙を見て、今さっき起こった出来事を再認識し恥ずかしさが加速する。
「お待たせー」目の前にコーヒーが置かれる。「私の特製ブレンド」したり顔でこちらを見る傘子。いただきます。今までコーヒー飲む前に言った事ない。一口飲む。
正直なんだかとても美味しくない。えげつないくらいに苦い。「やっぱりあんまり美味しくなかったかー」顔に出しちまったか。そう言うとどんよりとした影が傘子を包む。目に見えて凹んでるが、言わねばなるまい。俺はミュージシャンだ、口から出る言葉に嘘はつけない。
美味しくないです。「そっかーやっぱり神社に行こうかなー」何故か唐突に出て来た神社。コーヒーがまずい原因がまさか呪いの類いなのか。この店自体が呪われているのか。あのー神社って?ドギマギしながら聞いてみた。
「先月お父さんが倒れちゃって、あーこの店お父さんのお店なんだけど、ずっと手伝いしたんだ。でもコーヒーの淹れるの下手くそで、全然美味しくないんだよ。自分で飲んでもそう感じるからきっと誰が飲んでも美味しくないよねー。そこで入院してるお父さんに聞いてみたんだよねどうやったら美味しくなるか。そしたら"豆を感じろ"って、意味がわからないじゃない。そしたら同じ病室のおじいちゃんが横からね、縁がないのかもしれんなって。神社の場所を教えてくれたんだ」
何というか、なんだろう感覚だけで生きてる世界、俺と……同じだ。
「行ってみる?1人だとなんか怖くて、仲良い友達にはこんな事話せないし、路上でくさっ……まだ芽の出てないミュージシャンなら何かお願い事あるでしょ?」
こんな子供騙しのような話、しかもよくわからない隣のベッドの老人から聞いた信憑性皆無の戯言。さりげなく貶されるこの感じ悪くない。傘子が可愛い、誘いには乗る以外にない。
行こう。即答した。
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