察してちゃんには我慢ならない!

ちびまるフォイ

「はぁ……(クソデカため息)」

「どういう仲間を探していますか?」


「これから無言で人間を焼き払うような極悪な魔王を倒しに行くので

 回復と攻撃の魔法がどちらでも使える魔法使いがいいですね」


「いますよ」


「それはよかった。できれば女の子がいいかなぁ。

 男だとギスギスするけど、女の子の失敗なら許せる気がする」


「いますよ」


「あと、可能なら美人がいいなぁ」


「いますね」


「え、じゃあスタイルがいい人がほしいです。

 こう走り寄ってくるときに胸が揺れるくらいの!」


「もちろん」


「あと髪型はツインテールで!!

 さらにミニスカニーソックスでちょっぴりドジな子を!!」


「いいですとも!!」


あまたの要望を叶えてパーティに女の魔法使いが入った。

能力も見た目もすべて勇者の要望通りの逸材だった。


「これからよろしく」


「はぁ……」


会うなり早々にため息をつけられた。


「あの、なにか?」

「別に……」


「えーーっと、改めてこれからよろしくね」

「はぁ……」


「それは……なんのため息?」


「もういい……」


「え!? ちょ、ちょっと!?」


魔法使いはぷいとそっぽを向いて女子会を開いた。

女子会では声高に勇者の悪口を言っていたと後日信頼できる情報筋から共有された。


「俺の悪口って……なんかまずかったのかな?」


「いや、なんか彼女としてはもうちょっと初対面のときに

 ちゃんと丁寧語で接してほしかったんだって。

 あと、いきなり握手は下心を感じるから嫌だったんだって。

 あと、週休5日制にしてくれないと化粧ノリが悪くなるから嫌なんだって。

 あと、勇者がずっと同じ防具つけて臭いからなんとかしてほしいんだって。

 あと……」


「めっちゃ要望多いな!」


「っていうのを、察してくれないから逃げたんだってさ」


「マジか……察する、ねぇ……」


あのため息には「察してください」のシグナルだったとは。

数多の魔物の前動作を見て次の攻撃を予想していた勇者でも気づけなかった。


ふたたびパーティに魔法使いが合流すると、


「はぁ……」


女はまたこれ見よがしにため息をついた。


「あの、なにか困ってる?」


「はぁ……」


「あーー、違ったかな? なにか飲む?」


「はぁ……」


「これも違う? えと、今日は体調悪いとか?」


「はぁ……」


「寄りたい街があるとか?」

「はぁ……」


「ごめん、ちょっとなれなれしいかな? 丁寧語の方が良い?」

「はぁ……」


「新しい武器がほしい!?」

「はぁ……」


「髪がまとまらない!?」

「はぁ……」


「酸素が足りない?」

「 は ぁ … … 」


「もうなんなんだよ!!!!」


勇者はついに我慢の限界に来てしまった。

しかし、怒った勇者よりも魔法使いはますます怒った。


「もう! どうして全然わかってくれないのよ!!」


「さっきからため息しかヒントがないのに

 いったいなにをどうすればわかるっていうんだ!!」


「私の足のかかとが靴ズレで痛いってことくらい、

 勇者ならわかって当然でしょ!!」


「わかるか!!」


「だから男って嫌なのよ!! もう女子会するしかない!!」


魔法使いは男子禁制の女子会を連日開催し、勇者との連絡を立ってしまった。


「あーーあ」

「勇者なにやってんだよ」

「お前ほんとダメだなぁ」

「これだから転生あがりは……」


「いやちょっと待って!? これ俺が悪かったの!?」


さらには仲間から白い目で見られてしまいメンバー内での立場はフンコロガシ以下にまで落ち込んだ。


「どうすんだよ。実際、彼女は戦力としても優秀だろう?

 彼女がいないと魔王になんか太刀打ちできないよ?」


「そうだけど……」


「それに、女子会しまくって勇者から離れているのは

 どこかで勇者に迎えに来てほしいって気持ちの裏返しなんじゃないのか」


「めんどくさいなぁ……」


「選んだのは勇者じゃない」

「それに新しいメンバーとまたイチから仲良くなるのは大変だよ」

「新しい人にするよりも彼女を連れ戻したほうが早いよ」

「これだから童貞勇者は……」


「あーー。わかった、わかったよ! 俺が連れ戻してくるよ!

 もう、このパーティには俺の味方がひとりもいないのか!」


「まあ、戦闘の仲間とプライベートは違うから」

「はくじょうものーー!」


勇者は仲間に毒づいてから魔法使いを迎えに行った。

魔法使いはわかりやすく夜の海岸でひとり座っていた。


傷心だと見て分かるようなポーズに勇者もどう声をかけていいか悩んだが

こうして放置する時間が長引くほど悪化することも知っていた。


「あのぅ……魔法使いさん……?」


「はぁ……」


「その、今まで察せなくてごめんね。俺ってどうにも鈍感で。

 主人公はある種の鈍感さがデフォでつくみたいで……」


「はぁ……」


「……ごめん、今のは言い訳だった。でもこれだけは信じてほしい。

 俺は君のことを仲間として信用しているし、これからも頑張って欲しいと思ってる」


「ふぅ……?」


ため息の語尾が上がった。


「ちゃんと察せないときもあるけど、俺なりに頑張るから。

 気づいたことは言ってほしい。そうしてもっと魔法使いの気持ちに気づけるようになるから」


「ひぃ……」


魔法使いは相変わらずのため息だった。

しかし、勇者の耳には別の声が届いていた。


(あーーもう! 勇者さまがせっかく迎えに来てくれたのに

 素直にごめんなさいって言えないなんて私のバカバカ><)


「こ、この声は……!?」


(うそ?! 私の心の声が聞こえてる!? 恥ずかしい~~><)


相手の気持ちを察したいと思う勇者の気持ちと、

USBの差込口を毎回間違うからなんとかしてほしいという世界の願いが天に届き、

ついに勇者は相手の気持ちを読み取るテレパシー能力を手に入れた!


「はぁ……」


(早くごめんなさいって勇者さまに言わなくちゃ。

 あ~~でも恥ずかしいよぉ>< 勇者さまになんて思われるだろう~~)


「俺は別になんとも思わないよ。辛くなるときもあるしね」


「はぁ……///」

(勇者さま……!)


「また一緒に冒険しよう」


「はぁ……!!」


今までは本音がわからずに不満だけを垂れ流すだけの嫌な奴に見えていたが、

テレパシーで心がわかるようになってからはそれも好意的に受け取れるようになった。

ちょっぴり感情表現が苦手な恥ずかしがり屋さんとして魔法使いは復帰した。


「はぁ……これでやっと冒険に集中できる……」


仲間への気遣いから解放された勇者はガンガン旅を進めて、

ついには魔王の潜む最終ダンジョンへと足を踏み入れた。


玉座には物言わぬ強烈な存在感で魔王が鎮座していた。


「お前が魔王だな……!!」


「…………」


「俺は勇者ヤマト! お前を倒して世界を救う!!」


そのとき、勇者の頭に声が届いた。



(あ~~もう勇者が来たのに緊張して言葉が出てこないよぉ~~><

 ちゃんと絶望してもらえるようなセリフを用意していたのに~~!)




「はぁ……」


勇者はもうこりごりと長いため息ついた……。

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