ツナグセカイ――如月学園編
五十月
第1話[4人の朝]
春、桜もだんだんと葉桜に変わってきた4月の半ば。まだ日も昇りきらない午前5時前、彼女、
「んっんーーー」
布団から出て大きく伸びをする。かわいいおへそが見えてますよお嬢さん。
軽く身体を捻りストレッチをした後、スルスルとパジャマを脱いでいく。今日はピンクっと。
ハンガーにかかった紺色のセーラー服に袖を通す。高校2年生になったし、もう少しスカート短くしてもいんじゃよ?
パジャマを綺麗にたたみ、最後にボブくらいの長さの髪を慣れた手つきでツーサイドアップに束ねていく。垂れ耳のワンコっぽい。
「さてと、そろそろ行かないとっ。……あれ?」
何かに気がついたのか、玄関ではなくクローゼットの方に近づいくる。
おっと、ちょっとまずいかも。
side:
いつも通り学校に行く準備を終え部屋を出ようとした時、クローゼットの扉の隙間から黒い布が出ているのを見つけた。
「夏用の制服かな?」
クローゼットの扉を開けると――
「やはー!おはようリンニャン!」
1人の女の子が飛びだしてきた。
突然の出来事に膝から力が抜け、尻もちをついてしまう。
「な、何してるの
「いやぁー人間驚き過ぎると声出ないんだねー」
悪びれもせずケラケラ笑うこの子は
「もー心臓飛び出るかと思ったんだからっ!なんでそんな所にいたの!?」
「いやー、急に4時に目が覚めちゃったんだけど、二度寝するのもあれだからちょっとフラフラしてたら、ちょーどリンニャンの部屋の鍵開いてたから張り込んでましたっ」
「二度寝しててよっ!あ、いけない早く行かなきゃ!」
真音ちゃんに驚かされていつもより10分ほど部屋を出るのを遅れてしまっていた。
「早起きしたんだから真音ちゃんも一緒にって……何してるの……?」
「アタシは今からリンニャンの匂いに包まれながら二度寝するから気にしないでおくれっ!」
ぐっと親指を立てて人の布団に横たわっていた。
「真音ちゃん。今日お昼抜きね」
「ちょっ!まっ!嘘ですすぐ行きますーー」
ここは
1階へ向かうとキッチンに立つ人影があった。
「遅れてすみません
キッチンしまってあるエプロンを身につけ、流しで手を洗う。
「おはよー鈴音ちゃん。遅れたって言っても10分程度だから問題ないよー」
この人は
風夢荘では料理や掃除を役割分担していて、同じ風夢荘に住んでいる皆の朝ご飯と、学校に持って行くお弁当を作るのは私と春花さんが担当している。
「おやー?珍しく早起きじゃないの真音ー。鈴音ちゃんは卵焼き作ってー」
「おはー
「人聞きの悪いこと言わないでっ。朝から人の部屋のクローゼットに隠れてたのがわるいんだからっ」
早速言われた通り卵焼きを作っていく。今日はほうれん草とか入れようかな。
「なに真音覗きー?何色だった?」
「春花さんっ」
「かわいいレースの入ったピンク色の、こんなのでしたぜ!」
春花さんに携帯の画面を見せつける真音ちゃん――
「なんでそんな写真撮ってるの!」
真音ちゃんを追いかけてたら卵焼き焦がしちゃった……。
side:
ピピピピッピピピピッ
朝6時、部屋に目覚まし時計のアラームが鳴り響く。
「朝か……」
アラームを止めて布団から出る。
「んっんーーーっ。よし、とりあえず着替えて下いくか」
学園指定の学ランに着替え、身支度を整えていると、机の上に置いてあった携帯が震えた。画面にはメールのアイコンが出ている。
「朝から誰だ?……真音?」
いつも朝メシの時間まで起きて来ない奴がこんな時間に珍しいな……。
メールを開くと『ハッピーバースデー』と書かれている。いや俺の誕生日10月……。
「朝から何してんだアイツ……。画像フォルダついてるけど、怪しい」
怪しいが見たくなるのは仕方ない。とりあえず開けてみることにした。
「だいたいいつも道端の猫とかだけど、ハッピーバースデーが謎すぎて予測ができないが、鬼が出るか蛇が出るか――はっ!?」
ダウンロードされた画像にはよく知る女の子、来咲鈴音が写っていた。
どこかの隙間から盗撮したようなアングルで、ピンクの下着姿の鈴音を写し出して――
ドタドタドタッ!バタンッ!
「侍音君携帯!」
「うお!?びっくりしたっ!」
突然俺の部屋に入って来たのは、さっき下着姿で写真に写っていた鈴音だった。俺は咄嗟に携帯の画面を隠す。
「し、侍音君!真音ちゃんからメール来たよね?!見てないよね!?」
「あー、まだ見てない、よ」
「本当に!?と、とりあえずそのメール消して貰っても…いい?」
「りょ、了解」
鈴音に画面を見せながら、さっき来たメールを消す。
「よかったぁ…、あ!お味噌汁火にかけっぱなしだっ!じゃあ侍音君またあとでね!」
「お、おう」
急ぎ足で部屋を出ていく鈴音。それと入れ違いになるように元凶の真音が部屋に入ってくる。何をニヤニヤしてやがる。
「朝から騒ぎを起こすんじゃねえよ真音。何がハッピーバースデーだ」
「まぁまぁ。朝からハッピーだったんだからいいじゃないのさ。それに」
「それに?」
「画像保存したのは黙っていてあげるから」
「なっ!?」
「にゃははー。真音ちゃんにはすべてお見通しだよ!このむっつりさんめー。じゃアタシは
そう言い残し逃げるように部屋を去る
「秘密にするって言ってるけど、後々揺すられるなこれ……」
そうは思っても写真を消せないでいるのは俺のダメなところだろう……。
side:
「あっさだよボーイ!」
「ぐはっ!?」
まだ目指し時計のアラームが鳴らない6時半前、朝イチから腹に重い一撃を喰らった――
「おはろー音弥ー。朝からぷりちーな幼なじみに起こされて君はハッピーだねっ」
人の腹の上でゴロゴロと寝転び世迷言をたれる真音。こちとら二度と起きれなくなるかと思ったての!
「そういうのは……可愛げのある起こし方をしてから、言えっ!!」
真音を吹き飛ばすようにベッドから体を起こした。が、
「私に一矢むくいろうなんて100年早いとも。じゃもう朝ごはん出来てるから2度寝せずにはよ来なよー」
俺が起き上がるより早く人から飛び降り、そさくさと部屋を後にしていった。
ピピピピピピピピピッ!
真音が出ていくと同時に時計のアラームが鳴る。明日からもう5分早く起きるか……。
side:
にゅふふふふ。今日もみんな騒がしくて面白いですのぉ。さてと最後は。
コンコン
「
そーっと扉を開け中の様子を伺う。聖霞にぃの部屋はとある事情から鍵が撤去されているのだ。
「あーやっぱり倒れてる……。ほら朝ごはんの時間ですよっと」
机に突っ伏してるお兄さんを背負いあげる。いやぁ私も手馴れたもんですわ。
「う、うぅ……
「
「す、すまない真音ちゃん!」
「まったく!聖霞にぃがフラフラじゃなかったら投げ飛ばしてるとこだよ!」
こんな腑抜けた感じなのに、学園じゃみんなから信頼されてる生徒会長神夜聖霞様なんだよなぁ。
「とりあえず自分で歩けるから降ろしてほしいのだが……」
「私としてはーこのまま学園まで行ってもいいよー」
「それは、色々と困る……」
階段手前で聖霞にぃをおろし、体を支えながら下へと降りていく。完全に介護ですよこれ……。
side:来咲鈴音――
時刻は7時。この寮ではいくつか取り決めがあって、その1つは朝はみんなで朝食をとるということ。
『いただきまーす』
寮生6人で四角いテーブルを囲み朝ごはんを食べる。
私の右隣に侍音君。左隣に春花さん。正面に真音ちゃん。侍音君の前に音弥君。春花さんの前に聖霞さん。
いつの間にか定着した朝の光景。
「今日の卵焼き黒いな。焼いたの真音か?」
うぐっ……。
「失敬だな音弥ーそれは」
「鈴音だろ作ったの。食べればわかるよ。多方真音が邪魔したんだろうけどな(多分あのメールが原因だろうな……)」
ぶっきらぼうにそう答える侍音君。
「流石侍音くんー。違いのわかる男っ!そしてちょーっと意地悪したのも私!大正解!!」
「いや胸はるとこじゃねぇだろ……」
「ごめんね。今度は綺麗に作るからっ」
「気にすんなよ。鈴音の作った物はなんでも美味しから大丈夫だよ」
「そ、そうかな、えへへ」
「……なぁ真音」
「音弥、言うな……」
「そうよー不粋よー」
「「「(これで付き合ってないんだよなぁ……)」」」
なんだか生暖かい視線を感じる。
「みんなどうしたの?」
「「「べつにー?」」」
ニヤニヤする真音ちゃんと春花さん。少し呆れた顔の音弥君。いったいどうしたのだろう?
「ご馳走様でした」
こちらの会話に目もくれず1人早々と食べ終わったのは聖霞さんだ。
「聖霞にぃはいつも早いねぇ。ちゃんと噛んでる?」
「問題ない。すまないが僕は先に学園に向かう」
そう言って食器を流しに持っていき、荷物を取りに自室へ向かっていった。それにしても。
「毎度の事ながらご飯食べると元気になるって、聖霞にぃ単純すぎない?」
「まぁ単に食事取らないで学園の仕事こなして倒れてるだけだからね」
「それがだいぶ問題だと思うんだが……」
「聖霞さんならそういうのきにして調節できると思うんだけどね……」
「どういう訳か、兄貴生活面だけはポンコツだからな……」
生徒会長として色々な仕事を任され、仕事の合間休憩や食事を取らずに時折空腹で倒れているのを見かけるのは、この寮では珍しくはない。
春花さん曰く、聖霞さんがやらなくてもいい仕事も自分から貰いに行っているらしく、自業自得とのこと。
「ま、今の所は大丈夫よ。何かあれば私がフォローするしね」
自信満々にらそう告げる春花さん。聖霞さんと双子なだけに何か感じ取れるものがあったりするのだろうか。
そんな話をしていると、上の階から聖霞さんが降りてきた。
「春花」
「はいハンカチとお弁当」
「あと」
「ワイシャツのボタンならもう直しといたわよ」
「それから」
「寮の鍵閉めとかはちゃんとしとくから行ってらっしゃい」
「いつもありがとう」
「いつもの事だから気にしないの」
そう言って春花さんの体を抱きしめ、額に口付けをした。
「行ってきます」
「はいはい行ってらっしゃい」
手を振り見送る春花さん。これもまた毎日のように見慣れた光景なのだけれど。
「今日もラブラブですなぁ春姉」
「
「こういうのをツーカーな仲っていうんだろ?」
「兄と姉がイチャついてんの見せつけられる俺の気持ちが分かるか……?」
「「「(お前もイチャついとったろうが)」」」
なんだか一瞬真音ちゃん達から黒いオーラを感じたような……。
「ま、聖霞の事はいいから、あんた達も早くご飯食べて学校行く準備するっ」
『はーい』
朝ごはんを食べ終わり、各自お皿洗いや歯磨きなどを済ませ春花さんからお弁当を受け取る。そのあと春花さん以外の4人で学校へと向かう。春花さんは戸締りとかのチェックをしてから出るので、いつもみんなより少し遅く寮を出ている。
『いってきまーす』
「行ってらっしゃい」
にこやかに手を振って答える春花さん。なぜあとから登校するのかと聞いたら、毎日私たちを行ってらっしゃいと送り出したいからだと言っていた。みんなのお母さん気分らしい。
「さーて学校いきましょうかー!」
元気にみんなの前を早足で歩く真音ちゃん。
「なんでそう朝から元気なのかね」
少し呆れたように呟きながらも、真音ちゃんの隣を歩く音弥君。
「そんな急がなくても学園まで10分もかからねえだろ。大丈夫か鈴音、置いてかれてるぞ」
少し心配そうに声をかけてくれる侍音君。
今日もみんな元気そう。
「そうだね。私たちも早く行こうか」
少し小走りに、前を行く2人を追いかける。
「転ぶなよー」
「転ばないよーってわっ!」
転ばないといったそばから、大きめな石につまずいてしまった。
「よっと。言わんこっちゃねぇ。大丈夫か?」
つまずいて前のめりになった所を、抱きかかえて助けてくれたみたい。
「あ、ありがとう……」
「鈴音はそそっかしいなぁ」
そんなことないとおもうんだけど、今の状態じゃ何も言えない……。
「あーー!侍音君がリンニャンのおっぱい揉んでるー!」
少し離れた所から真音ちゃんがこっちを向いて声を上げていた。ちなみに侍音君の手は腰に回っていている。
「はぁ……。アホがなんか言ってるから行くぞ」
私を立たせてから、2人ならんで真音ちゃん達を追いかける。
今日もいつもと変わらない
そんな日常が続いていく
ツナグセカイ――如月学園編 五十月 @izukirisa
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