回顧

私が目覚めた時、キノシタさんは既に起きていて、いくつか並べた写真や私のデッサンノートと静かに語らっていた。

おはようと挨拶をすると、彼女の昨日の静かな様子はすっかり消え去っていて、快活なおはようが返ってきた。

「キノシタさんから見てどうかな?その構図……。」


私の描いた絵は、まるで写真館の見本のような構図だった。

描いてどうなるかという展望が見えているわけでもないのだが、彼女とまっすぐ向き合わないことには解決しないと、私は勝手に考えていたのだ。

単に私の腕がなく、よく見て描けさえすればそれなりに画が決まるかも……という目論見もあるにはあったのだが、結局その「よく見て描く」が一番難しいことには変わりないのである。


「ん~、まあいいんじゃない?なんか偉人の肖像画みたいで。」

彼女は相変わらずのんきな口調である。肖像画に死んだ人の絵という意味合いはないのだけれど、なんとなく、キノシタさんの背後にある死を意識してしまう。


「死ぬの、怖くなかった?」

気付くと私はそんなことを口走っていた。

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絵描き まーくん @maakunn89

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