準備

「……キノシタさん?」

「え?ああ、ごめん。どうしたの?」


私たちは、キノシタさんの家で、いくつか写真のデータや現像したものの写しをもらったあと、私の実家にも一応顔を出してからその日のうちに帰ってきた。


「いや、何というか……キノシタさんってお姉さんに心配されるくらい友達が少なかったかな?とか、キノシタさんの家にいる時全然しゃべらなかったけど大丈夫かな?とか、色々気になっちゃって……。」


思っていたよりも目的を簡単に果たせたはいいが、キノシタさんの様子はあまり嬉しそうではなかった。心配もあって、つい言葉をかけてしまう。


「うー、まあね。家では大人しいタイプだから、私。幽霊になっても家だとつい静かになっちゃったのかな?なーんて……。」

「そうなんだ……。まあ、元気ならいいんだけど。」

「心配させちゃったらごめんね、大丈夫だから気にしないで!」


声色は明るい。しかし、私にとって「顔色が伺えない」というのはなかなか辛いものだった。誰かとコミュニケーションをとる上では、大抵相手の顔色を見て話や相槌を決めていたので、怒ったり悲しんでいてもきちんと励ましたり慰めたりできないというのが私にとってはとてもやりづらいことだった。


「それよりほら、写真もらえたわけだしさ、描いてみてよ!」

「うん……じゃあやってみるね。」


話題を無理にそらされた気がしないでもないけど、深追いもできない。

寄り道して買ったり、実家からわずかながらかき集めてきたりした画材を整える。

ただ、今から始めても夜遅くまでかかってしまうので、今日は簡単に観察とデッサンの練習程度に留めて、明日の朝早起きして作業を始めることにした。

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