訪問

 出てくれたのはキノシタさんのお姉さんだった。

 私がキノシタさんの同級生であり、少し話があることを伝えると、中へ入るように言ってくれた。

 ひとまず仏壇の方でご挨拶をさせてもらった。すぐそばにキノシタさん本人がいるのに何だか妙な感じだ。


「はいはいどーもねー。ただいま帰りましたよー。」


 当の本人はこの軽さである。

 挨拶も終わったしとリビングに通され、お茶を出していただく。


「友達か……仲良くしてくれてたんだ?」

「あ、はい……。同じクラスで同じ美術部でしたから、それなりには。」

「そっか、ありがとうね。あの子、友達少なかったから。」

「え?」


 意外な一言だった。私と違ってキノシタさんは明るい人だったし、どこか抜けているけれど面白い言動も多く、クラスでも部でも色々な人に構い構われているイメージだったから。

 視界の隅のキノシタさんを見る。何も言わずじっとされていて表情も読めないので、こうなると心情はうかがい知れない。


「それで、用事っていうのは何かな?」

「あ、はい。実は……」


 絵画の制作課題に悩んでいたこと、ノートから出てきた落描きを見つけたこと、キノシタさんをモデルに絵を描きたいということ、そしてそのために写真を借りたいということ。

 キノシタさんが現れたこと以外はほぼ正直に伝えた。課題として出してもいいという許可は、昨日の話し合いでキノシタさんにもらっていた。


「へぇ……それってあの子じゃなきゃ駄目なのかな?」

「は、はい!私はキノシタさんが描きたいんです!もちろん、亡くなった人に失礼になるようなことはしませんし、私なりに精一杯描きます!どうかお願いします!」


 目を合わせて喋るのが苦手すぎて、最後の「お願いします」で顔を下に向けた。緊張もあってかなり早口でまくし立ててしまった。本当に大丈夫だろうか。怒られないかな。机の柄ばかりがやたらクッキリ見える。緊張が更に高まる。


「そう……分かった。

 じゃあ、いくつか写真を探してみようか。」

「……!ありがとうございます!!」


 思ったよりもずっとすんなり許可してもらえた。一気に視界が開けたような気がした。おそらく顔を上げたからだけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る