第3話

 美智留は仕事を終えると、スーパーマーケットへ向かった。

 通勤路にあるのに、1度も行ったことがなかった。たいていの買い物は、コンビニで済んでしまうから。

 味噌、カットわかめ、木綿豆腐、乾燥しいたけ、おかずになりそうな惣菜を買い、帰宅した。

 今日のランチレクを思い出し、味噌汁をつくってみる。

 乾燥しいたけと水をお鍋に入れて、火にかける。

 木綿豆腐はダイスカット。

 カットわかめと木綿豆腐を入れる。

 沸騰したら火を止め、味噌を入れる。

 なかなか良い感じだ。

 夫も機嫌を直してくれるかな。美智留はわずかに期待した。



 美智留が夫と出会ったのは、いわゆる合コンだった。

 当時、お互い未成年。すぐに気が合って、結婚を意識したのも早かったが、どちらの両親からも反対された。

 美智留が20歳になり、駆け落ちするように籍を入れた。

 両親とは会っていない。結婚指輪は買ったが、挙式はしていない。

 我が家の家計は火の車だということは自覚している。

 でも、介護の資格はとりたい。

 学校に通うためにお金が必要になるが、その分働ける自身はある。



「ただいま」

 夫が帰ってきた。

「美智留、ごめん。俺が悪かった」

 ホ-ルケーキの箱を手にして、夫は頭を下げる。

「俺も少し調べたよ介護の資格。初任者研修っていうの? 思ったよりお金がかからないんだな。大学みたいに通学するとばかり思っていたから、頭ごなしに反対しちまった。本当に、ごめん。俺がお金を出すよ。その分、今よりも働くから」

 夫は頭を上げると「味噌汁? 良い匂い」と早くも切り替えている。

 それがおかしくて、美智留は吹き出してしまった。

「ご飯、食べようか」



 結婚して初めての手づくり味噌汁に、夫は「あ-、うまい」と感激する。

 ふたりで介護職員初任者研修のパンフレットを見ながら、ショートケーキをデザートにする。

 熱々の夫婦ではない。

 味噌がおいしく溶けるくらいの温度が、ふたりに合った温度なのかもしれない。



 【「味噌汁は温いうちに」完】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

味噌汁は温いうちに 紺藤 香純 @21109123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ