第3話 良い匂いだな。そろそろ飯か?
「じゃあカレーの味付けで煮込んで行きましょう。そうだなぁ、ピーマンと
「あら、そうなのね」
「はい。味が馴染むと言いますか落ち着くと言いますか。なので明日でも美味しくいただけますから」
「楽しみだわぁ。今日はカレーなのよね。ピーマン大丈夫かしら」
エレノアが不安げに言うと、
「カレーソースは味が強めなので、ピーマンも巧く馴染むと良いんですが。とりあえず試してみましょう」
「そうね。もし食べなかったら、無理強いするのもね……ピーマン以外を食べて貰う事にするのが良いのかしら。いつもは一緒に入ってるものもピーマンの味がする気がするなんて言って残されちゃうのだけども、このソースなら大丈夫でしょうし」
「そうですね。無理に食べさせて、余計に嫌いになっちゃったら困りますもんね」
では調理開始である。先にビーフストロガノフを仕上げてしまおう。
フライパンにオリーブオイルとバターを引き、塩で下味を付けた牛の薄切り肉を炒めて行く。
火が通ったら少量の白ワインを入れ、フライパンの底にこびり付いた牛肉の旨味を
全体を混ぜて、火を止める。
その横で湯を沸かし、塩を入れて、鞘から外したグリンピースを下茹でする。2分ほどしたら火を止めて。
「これで両方ともこのまま置いて粗熱を取ります。ビーフストロガノフは明日温めて貰って、水気を切ったグリンピースを散らしてください」
「グリンピースっで茹でるの?」
「はい。そうしたら青臭さみたいなのが取れますよ。ケアリーくんグリンピースは大丈夫ですか?」
「あまり好きでは無いみたい。でもどうにか食べてくれているわ。どうしても食べられないもの以外は、少し我慢して食べてねって言っているから」
「じゃあこの下茹でで、少しは食べ易くなるかも知れませんね」
「だと嬉しいわ。こんな一手間で、食べ易くなったりするのね」
「そうですね。
「そうなの?」
「はい。まずは切り方なんですが」
ピーマンを縦半分に切り
「ピーマンは横に繊維が走っています。なのでこうして縦に切ったら、苦味が出
「切り方で変わるものなの?」
「そうなんです」
そうして切り終わったピーマンを、塩を入れた湯で茹でて行く。
「これでも苦味とか青臭さが粗方抜けますよ」
「成る程ねぇ」
ピーマンを
そこに乱切りにした茄子を入れ、炒め揚げにする。それもカレーの鍋へ。
同じ鍋で一口大に切り塩胡椒で下味を付けた豚肉を焼き付けて、良い色になったらカレーと合わせて。
鍋にブイヨンを入れ、豚肉の旨味を刮げ、それもカレーに鍋に入れて、煮込んで行く。
「今回はソースを先に作ったので材料をこうして後入れしましたけど、普段はいつもの作り方で大丈夫ですよ。玉葱炒めて、茄子を炒めて、スパイス入れて、トマト入れて、ブイヨン入れて。豚肉は焼き付けなくても大丈夫ですけど、したら香ばしさが加わるので更に美味しくなりますよ。ピーマンはケアリーくんが食べられないうちは、下茹でしてあげてください。あ、今日食べられたら、ですけど」
「そうね。でもこれだけ手を掛けてくれているのだもの。絶対に食べてくれると思うわ!」
エレノアが力強く言うと、浅葱も「そ、そうですよね!」と自らに言い聞かせる様に言った。
さて、塩と胡椒で味を整えて、豚肉と茄子とピーマンのカレー煮込みが完成である。
「食べるのは主人が帰って来るのを待ちたいのだけども。もうすぐ戻ると思うわ」
「じゃあ片付けられるものは片付けちゃいましょう。もう1品の仕上げも帰って来られてからで」
そうして洗い物などをしていると、エレノアの夫、ケアリーの父親が帰って来た。
「ただいま! お、立派な城だなぁ。カロムに遊んで貰ってたのか良かったなぁケアリー。カロムありがとうな! お、こちらのカピバラは錬金術師さまだな? 初めまして、ケアリーの父のタッドです!」
大きな声で、ほぼ一息でそう言う男性の声が台所まで聞こえて来て、あ、ケアリーの落ち着き無さはやっぱり父親似かも知れない、と浅葱は思った。
「騒がしくてごめんなさいね。主人のタッドは声が大きくて良く喋る人で……」
エレノアが少し恥ずかしげに言い、顔を伏せた。
「いえ。賑やかなのは良い事だと思います」
「そう言って貰えると。ケアリーはタッド似なんですよ」
はい、そうでしょうね。と浅葱は思ったが、口には出さず、にっこりと微笑むに
さて、もう1品の仕上げ。ピューレ状で鍋に入れておいたピーマンと玉葱と
その時、タッドが台所に顔を覗かせた。細面で神経質そうだと言われても違和感が無いが、くりっと開かれた眼がその印象を裏切っている。
「エレノア、ただいま! あ、アサギくん世話になるな。ありがとうな!」
「お帰りなさい。本当にアサギくんにはお世話になっちゃって。凄いのよ、アサギくん」
「お帰りなさい。いえいえ、そんな大層な事では無いので」
浅葱が恐縮すると、タッドは「
「良い匂いだな。そろそろ飯か?」
「ええ。もう出来てるわよ。貴方のお帰りを待っていたの」
「おっと、そりゃあ済まないな! 手伝いは要るか?」
「今日は僕がいますので。食堂で待っていてください」
「あ、ケアリーに積み木を片付ける様に言っておいてね」
「ああ、解った。後はよろしくな!」
タッドは言うと、食堂兼居間に戻って行った。
牛乳を加えた鍋がゆっくりと沸いて来た。全体が温まったら塩胡椒で味を整えて。
ピーマンのポタージュの完成である。
浅葱たちが出来上がったカレー煮込みとポタージュを器に盛っていると、食堂から「やだ! ママに見せる!」と言うケアリーの叫び声が聞こえて来た。エレノアは「あらあら」と苦笑する。
2枚のトレイに乗せた全員分のカレー煮込みとポタージュ、そして籠に盛ったパンを食堂に運ぶと、ケアリーがタッドから守る様に、積み木の城の前で両腕を広げていた。
エレノアがテーブルにトレイを置くと、ケアリーが「ママ!」と嬉しそうに叫んで駆け寄って来る。
「ほら、お城出来たよ!」
そう言って城を指差す。エレノアはケアリーに引っ張られる様に城の前へ。
「本当に凄いわねぇ、立派なお城ねぇ」
エレノアが感心した様に言うと、ケアリーは「きひひ」と得意気に笑った。
色取り取りの積み木で作られている城。積み木の形を重視して積んだからか、色彩感覚は何とも面白いものになっているが、その形状は確かに立派なものだった。
「じゃあケアリー、お片付けしてくれる? ご飯の用意が出来たから」
「はーい!」
ケアリーはエレノアに城を見せて満足したのか、素直に片付けを始めた。カロムとタッドもそれを手伝うとあっと言う間に城は
さぁ、夕飯である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます