第8話 それを凌駕する程の美味しさがあったのですカピ
数日後、肉商店でホルモンの販売が始まった。
それは特に告知などもせずひっそりと始められたのであるが、買い物に来た村人が、普段購入する赤身肉と並べられた、白かったりつるりとしたりしている見慣れぬそれらに気付かない筈が無い。
「あっ、これ、この前役場の前で食べさせてくれたやつよね、牛の内臓。ホルモン? だっけ? 美味しかったから買いたいんだけど、どう調理したら良いのかしら」
村人に調理法を伝える為に、臭み取りなどの方法も記したレシピを準備した。村で唯一の新聞局が協力してくれ、量産する事が出来た。
それを肉商店、牧場、浅葱たちの家で分けて、配布用に持っている。割合は肉商店が多い。
内容は、先日配った3品に、村人が作り慣れている煮込み料理を数品。トマトやカレー、スパイスなどの味付けで。
「あら、これは嬉しいわぁ。へぇ、普段の煮込みとあまり変わらない味付けもあるのね。でもいつものお肉と違って、この下処理って言う手間が掛かるのね〜」
「けど、下茹でした後に玉葱と一緒にビネガーの調味料で和えたら、前に食って貰った和え物の完成だぜ」
「ああ、成る程ねぇ。全部美味しかったけど、ビネガーのやつも本当に美味しかったわ。じゃあ、それが作れるホルモンを頂戴」
「お、毎度あり!」
そんな感じで、ホルモンは村中に普及して行った。レシピが貰えると口コミで広がった時には、早々に売り切れてしまう日もあった様だ。
なので。
「店主、ホルモン頂戴」
そうカロムが言っても、店主に「悪い、品切れだ」と頭を
しかし牧場の方も、1日の解体数を簡単に増やす事など出来ない。なので
食堂もこぞって「うちでホルモン料理を出したい」と肉商店や牧場に掛け合ったそうだが、これは振る舞いに関わった浅葱たち、肉商店、牧場で前もって決めていた通りに断っていた。
そんな事をしてしまえば、ホルモンは全て食堂に渡ってしまう、村人は勿論浅葱たちの手にすら入らなくなってしまうからだ。
そんな日々が続き、やや落ち着いた頃。
その日の夜のメニューは、チョウやミノなどをたっぷり入れたカレーライスだった。
弱火に掛けた鍋にオリーブオイルを引き、
そこにスパイスをブレンドして作ったカレー粉を入れ、香ばしくなるまで炒めて、トマトの微塵切り、ブイヨンを入れる。
沸いたら茹でこぼしたホルモンを入れ、煮込んで行く。
青いものはグリンピース。
それを炊いた米にたっぷりと掛けた。
「ん、ホルモンはカレーにも凄く合うんだな!」
スパイシーさに混ざるホルモンのしっかりとした風味。ピリッとした辛味とまったりとした甘みが引き立て合っている。
そしてホルモンの旨味が溶け出していて、何とも良い味わいが生み出されていた。
様々な食感もさることながら、その味もホルモンの魅力だった。
「あ〜これは旨い。カレーだけ腹一杯食いたい。まさかカレー食ってて米が邪魔だと思う事があるなんてな」
カロムはそう言って、スプーン片手にうっとりと眼を細める。
「いやいや、お米あってのカレーだよ、やっぱり」
浅葱は「あはは」と笑いながら応えた。
「でもカロムさんのお気持ちも解りますカピ。これはカレー味のホルモンを存分に食べたくなりますカピ」
口の周りにカレーをたっぷりと付けたロロアが嬉しそうに言う。口元のカレーは次の瞬間には器用に本人の舌でぺろりと拭われた。
「そっかぁ。じゃあ今度きゃべつと一緒にカレー炒めにするのも良いかもね。それかカレー煮込み」
「どっちも旨そうだな! 頼むな。楽しみだ」
「僕も楽しみ。最近やっと普通に買える様になったもんね」
「本当にな。村人のホルモン熱もやっと落ち着いたって感じだぜ」
カロムは「やれやれ」と言う様に、苦笑して息を吐いた。
「まさかこんなに受け入れられるなんて思わなかった。やっぱり見た目があまり良い訳じゃ無いから」
「アサギさんが作ってくれたホルモン料理には、それを
「そうだったら嬉しいな」
浅葱は照れた様に笑った。
こうして、この村ではホルモン食が定着したのだった。
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