武張っているのが嫌い
帰宅するまでの間、
敵をちぎっては投げちぎっては投げ、大暴れする大東流の遣い手。
今まで読んだ
尚志の頭の中に大東流の記憶が段々とよみがえってきた。
大東流は正式には
・
・極めれば武器を持った複数の敵や自分より大きい相手も自由自在に投げ飛ばせる。
・開祖は
・
・さらには戦場の死体を解剖することで人体の仕組みを理解し、武術に応用。
・会津藩の
・中興の祖は昭和まで生きた武術家の
・その弟子には合気道開祖の
・
・有名な
尚志の大東流に対する知識は大体こんなものだった。
家に帰り夕飯を平らげると買ってきた雑誌を貪るように読み始めた。
特集記事にはまず大東流の概略と
大東流についての説明はすでに尚志の知っている事しか書いてないが、蒼天会という団体は初耳だった。
何でも、日本国内はもとより世界中に支部があるらしい。
次には蒼天会の創設者、
大正の生まれで身長一七五センチ、体重八五キロと大柄。
生まれ育ったのも、大東流を習ったのも北海道。
仕事の関係で上京。
偶然、同僚に大東流の高段位者であることが知られてしまう。
会社の仲間に請われ大東流合気柔術蒼天会を立ち上げ、その門弟は日本全国はもとより世界中に存在する。
ページの所々に道場での稽古風景を撮った写真が載っていた。
その中に、総髪で黒帯の高弟が思いっきり大岩宗師に向かって殴りかかったり蹴りを出している写真があった。
もちろん、大岩宗師は襲いかかる突きや蹴りを余裕で捌いている。
「インパクトの前に自分から踏み込むのです」
と、大岩宗師の解説付きで。
期待に胸を膨らませながら尚志はページをめくった。
楽しみにしていたインタビューの記事は十ページもあり、いくつかの受け答えは尚志の心に刺さった。
――稽古を見学させていただきましたが、道場の雰囲気が思ったよりも和やかというか和気あいあいとしていて驚きました。
「ええ、封建的で古臭くて体育会系な雰囲気では技は身に付きません。私はいわゆる武張っているのは嫌いです(微笑)」
――お弟子さんには社会人が多いのですね。今日新しく入門された方も四十三歳だとか。
「武術を始めるのに年齢は関係ないんですよ。現に私自身も三十八歳の時に入門しました(微笑)」
――昇段のシステムは?
「単純に出席日数を重ねていくと自動的に段位が上がります。特に試験はありません。白帯からスタートして初級、中級、そして上級になると茶帯です。初段になって黒帯になるまで大体三年くらいかかります。そして参段の次は四段にはならず
――
「ウチは技も隠しませんし、どんな人でも稽古内容は同じです。この蒼天会に入る人達は大岩の技を体感したくて来ているのですから出し惜しみはしません。すべてオープンなので来る者は拒まず、去る者は追わずです(微笑)」
――いやいや、オープンにするという事は実力がなくては出来ません。中には腕試しに来るのもいるのでは?
「腕試しというか、大東流がどんなもんかと興味を示すのはなぜか腕に覚えのある有段者です。面白いことに武術の素人よりかは空手
――大東流として初めてビデオで技術を公開されたのは蒼天会でしたね。
「はい。そもそも大東流というのは秘密主義なんです。それを私がオープンにしたものですから、他の団体や武術家達から相当嫌がらせや妨害を受けました(苦笑)。色々あって今は落ち着きました(微笑)」
――今の言葉のニュアンスだと妨害してきた団体や武術家達は返り討ちにあったのでしょうか?
「ご想像におまかせします(微笑)」
雑誌を読み終えた尚志は運命の導きを感じていた。
そして思った。
<教えを請うべき師がようやく見つかった>
<大岩鉄之進なんて
<武張っているのが嫌い、と言いながらバッチリ武張っている>
<三十八歳から入門してあれ程の達人になれるなら、二十三歳の自分ならもっとイケる>
<オープンなのがいい、つまり敷居が低い>
<段位が出席日数で決まる、というのも嬉しい>
<何より道場の雰囲気が和気あいあいとして厳しくなさそうなのが素晴らしい>
<見学して自分でもやっていけそうなら入門しよう>
<少し暴れたい気分だったし。暇ならたくさんある。警察の面接でもアピールできる。大東流の遣い手になるのも悪くない>
尚志はもう一度雑誌を読み返し蒼天会への連絡先を確認。
興奮が冷めやらぬまま、見学希望の手紙を出した。
返事はすぐに届いた。
なんと大岩鉄之進先生直筆で。
「見学は自由です。いつでも歓迎します」
と簡潔に。
手紙の最後には練習時間の日時と道場の住所が書いてあった。
幸いなことに道場は家から近い。
次の土曜日に見学に行こう。
大岩の実力はこの目で見ないとわからない。
どうか本物であってくれ、頼むから失望させないでくれよ、と願う尚志だった。
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