猫太郎

まいずみスミノフ

第1話

◯病院・分娩室

   内藤玲(32)分娩台で陣痛に苦しむ。

   傍らには助産師(55)と玲の手を握る看護師(23)。

玲「うちの旦那は! まだ来ないの!?」

   枕元にある玲のスマホがピロンと鳴る。

看護「旦那さんからラインですよ!ほら!」

   スマホ画面、玲の「産まれそう!」というメールの下、返信は「まじで」

玲「軽っ! ガキ産んでんだぞ!(間)…あの人はっ! 何してるの!?」

   スマホが鳴る。「冒険」と書いてある。

玲「仕事はあああああ!?」

助産師「今よ!陣痛に合わせていきんで!」

   玲、いきむ。だがまだ産まれない。

   浅い呼吸を繰り返す。看護師、スマホを見つめながらいう。

看護「ねえ旦那さん…木から落ちたって…」

玲「はあああああ!?」

看護師「あ!」

玲「今度はなに!?」

看護師「猫!」

   子猫がスマホの画面に写っている。

玲「猫おおおおおおおお!」

助産師「今よ! いきんで!」


◯病院・外観

   赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。


◯病院・玲の個室(夕)

   ボロボロの内藤正(32)が現れる。

   玲は無言で赤ん坊に母乳をあげる。

   内藤、両手に抱えた子猫を前に出す。

内藤「あ、あの…太郎に兄弟を…」

   玲、睨む。だが彼の姿を見て笑ってしまう。

   内藤、駆け寄ろうとする。が、

看護師「院内に動物は困ります!」

   看護師に首根っこを掴まれ連行される。

   廊下から「ちょっと! 足折れてますよ!」と聞こえてくる。

玲「当分面会は無理そうね…」

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猫太郎 まいずみスミノフ @maizumi-smirnoff

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