涙
昼休み。委員会の仕事を終わらせて、ありさのもとへ向かう。
教室を覗くと衣緒の姿はなく、ありさは一人で席に座っていた。
はんっ。つい鼻で笑ってしまう。昼休みにボッチとか、恥ずかしい。
そう思ってしまうのは、私の経験も理由の一つなのだけれど、それよりも……。
「ねえ、ありさ」
普段通りを装って声をかける。
「へっ?」
「へって何よ、へって」
「委員会の仕事はもういいの?」
「うん。終わったから。それよりさ、一緒にトイレ行こ」
「あ、うん」
トイレに向かう道中、ありさは終始にやにやしていた。きっとこの「一緒にトイレ」が嬉しいのだろう。女子は仲良くない人と一緒にトイレになんていかない。基本的には。今回の「一緒にトイレ」は、その基本的には入っていない。
トイレに着くなり、私は窓に寄りかかった。
「トイレ、しないの?」
「しないよ。私、ありさに話があるの」
「え……」
ありさの顔が分かりやすく曇る。さすがに状況を察したのだろう。
「昨日、衣緒と一緒に帰ってたでしょ。なんであんなこと言ったの?」
「あんなことって、なにかな……」
ああ、私はこの子が苦手だ。おどおどして、答えが分かっているのにそれを言わないで。
「なんで陸上部やめるのを促したのかって聞いてるの! 陸部はもう少しで大きな大会があるの。衣緒の最後の大会。大事な、大会」
「えっと、あの……」
「何よ」
きっと睨みつけてやると、怯えた瞳は右、左と泳いだ。
「衣緒ちゃんはもともと怪我して、やめるって思ってたから……。私が何か言わなくてもやめたんじゃないかな。大会に出れる保証もないし……」
「は? そんなの分からないじゃない」
そこでありさは視線を逸らすと、やがて口を開いた。
「なんで話聞いてたの? まさか衣緒ちゃんの後をつけてたとか?」
「だったら何よ」
「ストーカー……」
「……悪い? だって、ちょっと言いすぎちゃったかなって思って、ついてったらありさに相談してて! しかも、私といるときでもあんまり見せない、心からの笑顔まで見せてて!」
やばい、自分でも何が言いたいのかよくわからなくなってきた。
それでも、私の口は止まらない。
「私は友達を作るのが得意じゃないの。だから小学校の時に衣緒に話しかけられて、仲良くなって、凄くうれしかった。でも私にあの笑顔を見せてくれたのはしばらくたってからで、なのにあえいさには、あんなに早く……!」
私がありさにイラつく理由。
ありさは、昔の私によく似ている。同族嫌悪ってやつかな。
そしてそんなやつに、
「私の友達をとらないでよ……!」
「沙耶ちゃん……」
衣緒をとられたのが、悔しいんだ。
じわり、目に涙がたまっていくのが分かる。こんなのありさに見られたらたまったもんじゃない。
私は立ち尽くすありさを残して、速足で教室に戻った。
普通だよ 月環 時雨 @icemattya
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