翌日の放課後。

 いつもなら衣緒の部活を見に行くところだけれど、今日の陸上部に衣緒の姿はない。

 だからといって一緒に帰れるわけでもない。

 第一、私が校舎を出たとき、衣緒はもう校内にいなかった。

 さっさと帰ってしまおう。

 そう思うと、自然と歩くスピードは速くなる。

 澄み切った空気が気持ちいい。

 けれど私の心は真逆だった。

 ふと、前方に2人の人を見つけた。

 すぐにそれがありさと衣緒だということが分かった。

 慌てて歩く速度を緩める。

 そして、話の内容を聞くべく耳を傾けた。

 なんとなく、ストーカーのようになってしまった。

 しかしこれは偶然が招いた結果なので、目を瞑ることにする。

「……オリンピックに出たいわけでもないんだから」

 聞こえてきたのは、まぎれもない衣緒の声。

 話の内容は恐らく陸上の事だろう。

「そっか。衣緒ちゃんがそう決めたなら、それでいいんじゃないかな」

 次に聞こえてきたありさの言葉に、私は耳を疑った。

 それでいい?

 そんなわけがない。

 ありさは、衣緒が今までどれだけ頑張ったのかを知らないから、どれだけの間陸上をやってきたのか知らないかそんなことが言えるんだ。

 それでいいなんて、そんな簡単に言えることじゃない。

「ありがと。ありさっちに話聞いてもらったらなんかすっきりした」

 ……嘘でしょ?

 これじゃあ本当に衣緒が陸上をやめちゃうじゃない。

 私はありさに怒りを覚えた。

 勝手な発言をして、衣緒のこれからをつぶそうとするありさに。

 明日、ありさと話をしよう。

 そう、心に決めたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る