第3話 存在感を喰らう悪魔と悪魔退治屋の男





存在を喰らう悪魔について






『存在を喰らう悪魔』に存在を喰われた者は、

ある日突然自分の事を覚えている者がいなくなる。


周りの人の記憶だけでなく

登録した書類や住居等の記録もごっそり削られてしまう。


つまりは『自分という者の存在のすべて』を抹消されるという事らしい。



この時代に悪魔などという

非科学的な事象を信じる者など少ない。



それでも、たくさんの人々と船と建物が立ち並ぶこの都市では

そんな噂がまことしやかにささやかれる。






$$$






【社員募集:鯨の王様(ホエールキング)】

@アットホームな職場です。



「・・・これだ」



流れ者の男は、

職業紹介所へ足を運んでひとつの張り紙に食いついた。



腰に剣をぶら下げており

その後ろをぴょこぴょこ不細工なしゃべるぬいぐるみが

男の後についていく。



「キロさん、就職活動は結構ですが、悪魔退治の方はどうするんですかね」

「え?何か言った?」



「忘れたんですか・・・ご自身の使命を!」

「なんで勝手に使命にされてんだ!・・・俺は、今度こそ、普通に就職して普通に生きるぜ」




今は人手が足りないらしく、

申し込んだらすぐに面接に呼ばれた。



面接中・・・




「い・・・い・・・以前は、悪魔を退治していました」




震える声、

膝がガクブルしている。


対する面接官の目は・・・死んでいた。


新しい人を入れても、入っては辞め、入っては辞めの繰り返し、

人事部の担当者も心底精神が疲弊していたのだが、

彼がそれを知るはずもない。



「はは、ウケますねぇ」



(目が・・・笑ってない・・・)



そして、

流れ者の男の採用が決まった。




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